銀魂短編集
□僕らの季節
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多少雲があるものの、明るく晴れた空。そんな気持ちの良い天気の江戸上空から、白いパラシュートが河川敷に向かって降り立とうとしていた。パラシュートにつかまった黒髪の男…桂小太郎が、近付く河川敷を見ながら彼にしがみついている銀髪天然パーマの男に言った。
「銀時、そろそろ俺は着陸せねばならん。手を離せ。」
銀髪の男…坂田銀時はあまりにも突然な要求にキレた。
「はぁ!?ふざけんなよヅラ!!テメェ、俺ァ仮にも負傷者だぜ!?ケガしてんの!!まだ地面までかなり高さあるじゃねーか!!そんな理不尽かつ無理なことなんかやる訳ねーだろ!?」
「ヅラじゃない桂だ。大丈夫だ銀時。お前なら出来るぞ銀時。銀時、お前は大江戸の星になれ!」
「どこの巨●の星ですか!?つーかこんなとこで手ェ離したら大江戸の星どころか空の星になるわァァァ!!」
「二人共星になるより一人だけがなった方が被害も少なく済む!さぁ墜ちろ銀時!!」
「黙れ!!俺にその趣味悪ィパラシュートを譲ってテメェが墜ちやがれ!!」
「趣味が悪いとは何だ!!これはれっきとしたエリザベスだぞ!?」
「それが趣味悪ィっつってんだよ!!」
引っ張り合い揺さ振り合いをしている内に体勢が崩れ、二人は真っ逆さまに墜ちた。
ドカッ!!
考えるまでもなく二人は揃って着地に失敗した。砂埃が辺りに舞う。風に吹かれて砂埃が消えた時、桂は銀時の背の上に乗る様な状態になっていた。
「いってェェェ!!傷口が開くぅぅぅ!!」
銀時の悲痛な叫びが上がった。銀時の上に乗っている桂は顔をしかめた。
「その程度の痛みくらいで騒ぎ立てるなど‥貴様、それでも男か?」
「ヅラっ!!テメッ、何いつまでも人の上に居座る気だ!?早くどきやがれ‥っ!!」
キレた銀時はケガのことを忘れ、桂を退かそうと勢いよく起き上がってから来た激痛に、声も上げられずに悶えながら地面に倒れ込んだ。桂はそんな銀時を見て、ため息をつきながら立ち上がった。そしてそのままぺしゃんこになったパラシュートを片付け始める。銀時はその様子を地面に寝転んだまま見つめていた。
不意に、黙っていた銀時が口を開いた。
「あーあ‥そんなに短くなっちゃって。」
銀時が髪の毛のことを言っているのに気づいた桂は、何もしない上に桂が少しばかり気にしている髪について言ってきた銀時に向かって怒鳴った。
「何だ貴様!!確かに俺も切りすぎだとは思‥少しは手伝わんか銀時!!」
「お前、俺がどんだけ重症かわかってんの!?動ける訳ねーだろバカ!」
それきり銀時は再び何も言わなくなった。銀時が黙っているので、桂も黙々とパラシュートを畳んでいたが、しばらくして作業の手を止めて口を開いた。
「…リーダー達に言われた。この髪型を見せてお前に笑ってもらえと。」
銀時は何も言わない。ただ空を見つめるだけだ。
「笑ってもいいぞ。」
「……」
「何だ?笑わんのか?ならば俺が代わりに笑ってやろう。アーッハッハッハ!!」
「うるせーよ!!黙っとけや!!いってェェェ!!」
地べたでもがく銀時を無視し、桂は立ち上がる。土手の方に目をやると、エリザベスや部下達、そして新八と神楽がこちらに向かってきていた。
「どうやら迎えが来たようだ。俺は帰るぞ。」
「ヅラ。」
銀時に呼ばれて桂は振り返る。銀時は桂のいるのとは逆の方に顔を向けていて、その表情はわからない。どうせいつもの気の抜けた死んだ魚のような目をして、口を一文字に結んでいるだけなのだろうが。
「お前、どうせまたすぐに髪伸びるんだろ?このドスケベが。」
「ヅラじゃない桂だ。誰がドスケベだ!」
「もしすぐに髪が伸びたら、その時は笑ってやるよ。」
「…フン。」
桂は銀時に背を向け、ゆっくりと歩き出した。
「じゃあな。」
桂が言うと、銀時は右手を上げてひらひらと振った。桂がエリザベスの元に向かう時、新八達とすれ違った。新八が止まり、桂を呼んだ。
「桂さん。」
「うん?」
「銀さんと、何を話したんですか?」
「別に大したことは話していない。」
「平気‥なんですか?」
「何がだ?」
新八は少しためてから言った。
「だって、あの‥高杉さんはあなた達の仲間だったんでしょ?辛くはないんですか?」
新八は子供なりに心配しているんだろう。遠慮がちに尋ねてきた彼の顔を眺め、桂はそう思った。
「辛くない…と言ったら嘘になるかもしれん。だが、このような結果になることは目に見えていた。俺は俺のやり方でただそれを受け止めるだけだ。銀時には奴のやり方があるようにな。それより早く行ってやった方がいいのではないか?リーダーだけではあれだけの傷を負った銀時は手に負えないと思うが。」
「あっ、そうだった‥。じゃ、失礼します桂さん。」
駆け出した新八の背中を見て、桂は笑った。
「銀時‥お前、大切にするどころか大切にされてるじゃないか。」
桂はそれきり振り返らずに歩いていった。
銀時はエリザベス達と並んで去っていく桂を見つめていた。その手には銀時達のはじまりであり、桂の身を護った教科書がしっかりと握られていた。それを見て、銀時はフンと鼻を鳴らした。
「俺もまだ持ってりゃ、こんな重症になんなかったかねぇ。」
「銀ちゃん、何言ってるアルか?」
「別に何でもねーよ。こっちの話だ。気にすんな。」
「銀さん、早く帰りましょうよ!姉上も待ってますから!」
「そうネ!定春も待ってるヨ!早く起きるアル!」
「オイオイ、どいつもこいつも俺に対する気遣いとか優しさは無いんですか?俺ケガ人なの!動くの大変なの!いって!おい神楽!もうちょっと丁重に扱え!」
「文句ばっかうるさいアル!」
「そうですよ!大体、そのケガだって自業自得じゃないですか!」
「うるせーな!テメーらこそあんな場所にガキだけで行って、何とかなったと思ってんのか!?俺が行かなきゃどうなってたか!ちったぁ感謝しやがれ!」
晴れ渡る空の下、賑やかな声が辺りに響き渡った。