続・銀の刃が光る時(長編)

□第四十訓
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−真選組屯所。
土方は刀の手入れをしながら深く考え込んでいた。

(今回の脅迫状の一件、あの後半部分は確かにマスコミには伏せられていたはずだ。だが、現にニュース報道もされちまったし、間違いなく世間は混乱する。誰が、一体何のために…)

「副長ォォ!!大変ですぅぅぅ!!」

土方の思考は、ドタバタと駆け込んできた山崎の叫び声によって無理矢理中断させられた。

「オイ山崎テメッ!もう少し静かに入って来れねーのか!?」

「す、すいません‥でも一大事なんですよ!」

「一大事?そういやお前、万事屋の監視してたんだったな。何か進展でもあったか?」

「そういや…って、俺にやれって言ったの副長じゃないですか!俺の存在ってそんなに稀薄なの!?」

「うるせーな、お前のそれは今に始まったことじゃねーだろーが。気にするだけ無駄だ。良いからさっさと言え!」

「謝罪も慰めも無いまま肯定されちゃったよォォォ!!」

山崎は何もかも諦めたようにため息をつくと、真剣な表情になった。

「万事屋の旦那が消えました。新八君達のあの様子を見てると、多分行き先も告げずに出て行ったみたいですね。」

「何だと?」

山崎の報告に、土方の表情が険しいものに変わる。

「それだけじゃありません。他の監察方の話では、あの桂も行方を眩ましたらしいです。」

「まさか、今回の一件で‥ってことか?」

「旦那の方は実際どうだかわかりませんが、桂は十中八九そうだと思います。」

「桂が動いた、か‥やっぱり裏で糸引いてんのは高杉か。」

「え、は、はい。確かに黒幕の一人は高杉なんですけど‥あ、あの副長…いや、まだ確証がある訳じゃないし…」

「何だ?今は信憑性がどうとか気にしていられる時じゃねぇよ。少しでも関わりのありそうな情報があるなら渋らずに全て報告しろ。」

土方の言葉を聞いた山崎は、何かを言い淀んで口をつぐもうとしたが、やはり許されなかった。山崎は尚も迷うように視線をさ迷わせたが、やがて観念したらしい。辺りを見回すと、声をひそめて言った。

「‥まだあくまで噂の段階ですが、この一件、高杉の他にどうやら幕府の人間が一枚噛んでいるらしくて…」

「な‥に!?」

幕臣、仮にも身内の中に攘夷浪士との繋がりがある…思ってもみなかった内容に、土方の目は大きく見開かれた。
不確かながらも内容が内容なだけに、外に‥特に近藤の耳に漏れるようなことはあってはならない。そう判断した土方は、山崎同様に声のボリュームを下げた。

「一体誰だ?こんなクソみてェな目論見をしやがってる野郎は」

「あの幕府のエリート官僚、老中勝川舟です。」

「‥!なるほど、そういうことか。」

土方はバラバラになっていたパズルのピースが綺麗にはまっていくような感覚を覚えた。

「何に納得してるのか全然わかんないんですけど、相手は大老に続く階級の人間ですよ!?俺達がどうこうしようとしたって簡単に出来るモンじゃ‥」

「ああ、そうだな。だがこのくだらねェ計画は何が何でも潰す。」

「副長、俺の話聞いてました!?悔しいけど俺達みたいな一介の警察組織の下っ端には到底やれることじゃありませんよ!」

「確かに、身内っつー枠に入ってる俺達にゃ、直接粛正なんざ出来ねェだろうよ。けど、同じ目的を持った他人を使うことなら出来んだろ。」

「まさか、桂を利用するつもりなんですか!?」

「まァ、土方さんなら逆に利用されかねませんがねィ。」

「!?お、沖田隊長!今の話聞いて‥」

突然話に入ってきた声に、驚いた山崎が振り返ると沖田が柱に寄りかかっていた。土方がチッと小さく舌打ちしたのを見た沖田は、ニヤリと嫌な笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。

「土方さん、ずるいじゃねーですかィ。そんなに面白そうなこと一人でやろうとするなんて」

「いや、一応俺居るんですけど‥何?コレ。俺もう泣いて良い?」

「俺も交ぜてくださいよ。いつも二人で一緒にやって来たじゃんトシぃ〜。俺達トシとソーゴって世間で騒がれてきたじゃん!バズーカも手榴弾もお手の物だったじゃん!チームワークハンパなかったじゃん!」

「どこのあぶない刑事(デカ)だ!!何だよトシとソーゴって!つーか毎度一人で持ち場から勝手に離れて単独行動ばっかしやがるお前の口から、チームワークなんて言葉出てくるとは思わなかったわ!!」

キレる土方を相変わらずおちょくるような態度で、沖田は完全に居座った。土方は眉間に皺を寄せて苦々しく息を吐き出すと、沖田を軽く睨んだ。

「オイ総悟。くれぐれもこの話、近藤さんには‥」

「わかってまさァ。俺もあの人にゃ余計に気を揉んで欲しくありませんからねィ。上手いこと誤魔化しますよ。」

「そうしてくれ。じゃあ本題に入るが、まずは桂の足取りを掴まねェとな。」

「ああ、そのことなら万事屋のガキ共追ってたらわかりやしたぜィ。」

「何!?つーか桂と万事屋は一緒に行動してんのか!?」

「さあ、ガキ共は途中で見失っちまったんでそれは知りませんが、桂がそこに潜伏していたってのと、同じ頃に白髪で天然パーマの男が、人探して苛ついた腹いせに、店の壁を突き破ったらしいって話を聞いたんで。」

「何だそりゃ?まあ良い。で、どこなんだよ?そこは。」

「江戸切っての花街、吉原でさァ。」

予想外の返答に、土方は素っ頓狂な声を上げた。

「吉原ァ?何で奴ァそんな所に…。仕方ねぇ、あまり気は進まねーが‥行くしかねーか」

土方の言葉に、山崎は嬉々とした表情になる。

「吉原かぁ、俺行ったことないんですよねー。不本意ながらちょっと楽しみです。」

「何言ってんだ山崎。お前は万事屋の監視続けてろ。」

「え」

「行くぞ総悟。」

土方は言うなりさっさと部屋を出て行ってしまった。固まっている山崎に、沖田は始め見向きもしなかったが、すれ違い様に真っ黒な笑顔でこう言い放った。

「吉原なんざ行ったところで、てめーなんざ相手にもされねーよ。立ち位置的にもルックス的にも俺達の足下にも及ばねェてめーじゃあな。残念だったなァ、ジミー山崎君?てめーにはあの薄汚れたスナックがお似合いだよ。」

山崎はひらひらと手を振りながら悠々と出て行く沖田を唖然としながら見送った後、思いの丈を叫びと共にぶちまけた。

「ホント俺の扱い酷過ぎだろォォォォォ!!!」

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