記念部屋でござい

□二周年企画・好きっていいなよ〜主の奮闘〜
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長崎一太郎はその日のことを鮮明に覚えていた。


あれは小学3年生の夏休みのこと。夏風邪からようやっと回復し、父が祝いにと、久しぶりに夏祭りに参加するのを許可してくれた。
そこで、守役の二人と一緒に行きたいと、一太郎は願い出た。
京橋仁吉と永代佐助。二人は、幼い頃はいつも一太郎の傍にいてくれた、数少ない遊び相手であり、兄のように頼もしく、大好きな存在であったのだ。
そして夏祭り当日。
自宅まで迎えに来てくれた守役、京橋仁吉を見て
一太郎は愕然とした。


仁吉が、大層綺麗であったのだ。
髪を緩く結んだ様子も、紺色の浴衣から覗く真っ白で細い首も、帯によって強調されている、すらりとした体躯も。
何もかもが一太郎の目を惹き付け、目が離せなかった。
熱が出たわけでもないのに、胸がどっどっと激しく脈打った。


「坊っちゃん、お元気になって何よりです。
佐助も、あと少しで到着しますからね。」


仁吉は柔らかな声で言った。変声期を迎えた仁吉の声は、以前の高い声ではなく、何だかぐっと艶めかしいものになった。
その言葉を紡ぐ、ふくりとした珊瑚色の唇に、一太郎は釘付けになった。


「ああ、坊っちゃん。また背が伸びたのではありませんか。
水色のそのお着物もよくお似合いですよ。」


仁吉は屈んで、一太郎と目線を合わせてきた。
自分の顔が映った琥珀色の瞳が、きらきらしてとても綺麗だった。
両頬に添えられた仁吉の真っ白な手。細く長い指の滑らかな感触に、うっとりとした。
嬉しそうに笑む秀麗な表情を間近で見ていて、一太郎何とも言えぬ感覚に襲われた。
気持ちがふわふわと浮き足立つような、しかし少し苦しいような、不思議な心地であった。
以前は、その様なことはなかった。
仁吉のことは、前から綺麗であるとは思っていた。
しかし、こんなにもその姿に見惚れたことはなかった。
仁吉は、成長して、何だかとても美しくなった。
どこがどう変わったのか、具体的に言い表すのは難しい。
或いは、もしかしたら、変わっていないのかもしれない。一太郎が気付いていなかっただけなのかもしれない。
しかし今の仁吉には、そこに何かが加わっているように思える。
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