記念部屋でござい

□ーキミだけがいない世界2 ー最低でサイコーな日々
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「あー…まだ、喉の奥にえぐみが残ってるようだぜ。」


金次は忌まわしげに言って、再び咳をした。
今、金次達が住んでいる、長崎屋の裏にある一軒家には、妖達が揃って臥せっている。
前日に、妖達は勝負をしたのだ。
若だんなが商談のため海にいくので、誰がお伴として付いていくか、決めるためである。
勝負に勝つ条件は、栄吉が作ったまんじゅうの中に混ぜてある、安野屋の美味しいまんじゅうを引き当てること。
しかし今回、不思議なことに、確かに混ぜたはずの安野屋のまんじゅうを、誰も引き当てなかった。
つまり、参加した妖全員が、栄吉の作ったまんじゅうの凄まじい味の餌食になったのだ。


「けけっ。貧乏神の金次様が、人間の作ったまんじゅうを食って寝込むたぁな。お前さんに貧乏にされた奴等に聞かせてやりてぇぜ。」


金次の隣で寝ていた屏風のぞきが言った。
屏風のぞきも、栄吉のまんじゅうを食べて、ついさっきまで呻いていたのだが、幾分回復したらしい。


「うるせぇ。第一こいつぁ、まんじゅうだけのせいじゃねぇよ。
そのあと仁吉の薬を飲んじまったのが悪かったんだ。」


金次は鼻をならして答えた。
妖全員が、栄吉の作ったまんじゅうを食べて寝込んでしまうと、長崎屋の手代の仁吉と佐助は、皆に薬を飲ませてくれた。
しかし、その薬がまた、仁吉特製の、とてつもなく苦い逸品であったのだ。
仁吉は、「若だんなにいつもお出ししているのと同じだよ」と嘯いていたが、飲んだ妖達はみんな、立ち上がることすらできなくなってしまった。
それを毎回飲まされている若だんなに同情する半面、そんな強烈な味の薬湯を飲んでいて、いつも変わりなく生活している若だんなのすごさに恐れ入る妖達であった。



「馬鹿言うない。
仁吉の作る薬ぁ、確かに、附子の毒もかくやと思っちまうような味さ。
だけどな、どんな病でも確かに取り除いてくれるんだぜ。
余計体を壊すことはねぇよ。
だからつまり、お前さんは人の作った食い物に、まんまとやられちまったってぇ訳だ。」



情けねぇなぁ、とけらけら笑う屏風のぞき。金次は反論することができない。



「……三春屋の倅は、商いの方針を変えるべきだな。
皆に食べてもらえる、美味い菓子を作るんじゃなくて、死んでほしいと思えるほどに憎んでる相手に嫌がらせで送るための菓子を作りゃいいんだ。」



「ちげぇねぇや。」



屏風のぞきは笑い、茶の準備をする。
いつもはおしろや鈴彦姫がお茶をいれてくれるのだが、生憎、二人ともまだ、まんじゅうの味の衝撃から立ち直れていない。
自分で飲むのと、苦い苦い薬湯の口直しの分とを用意し、屏風のぞきは皆に配ってやった。
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