記念部屋でござい

□二周年企画・好きっていいなよ〜主の奮闘〜
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それから3年後。
仁吉はクリスマスの日に一太郎に恋人を紹介してきた。
しかし、その人は佐助ではなかった。


秋村という、俳優のように綺麗な顔立ちの男だった。
一見軽薄で、しかし随分と確りした芯を持った男だと思えた。
それでも、一太郎は納得がいかなかった。
この男が、仁吉を支えられるというのか。
試しに、仁吉の泣き顔を見たことがあるかと聞いてみた。
すると秋村は、きょとんとした顔で、しかし確かに、ない、と答えた。
その答えで、一太郎は安堵した。
彼と仁吉は直に終わる。
直感的にそう思った。




そして、一太郎が16歳になった年。


予兆は4月からあった。
イギリスにいる仁吉から、連絡が来なくなった。
eメールも手紙も、いくら送ってもなしのつぶてであった。
何かあったと思った。
そして恐らく、その『何か』には秋村が絡んでいる、と一太郎は思った。
仁吉は極めて論理的で、いつも冷静だ。
状況を客観的に見極め、今自分が何をするべきかを的確に判断する。
しかし、彼にとて柔い部分はある。
それは、今まで触れたことのない色恋の実。
だから、仁吉に変事あらば、恋仲の秋村絡みと一太郎は睨んだのだ。
実際、人を使って調べてみたら、仁吉は秋村と別れていたことが分かった。
恐らく、あらゆる通信手段を以てしても連絡がとれないのはその為。
秋村との別れが、仁吉を今までの生活や関係から引き離しているのだ。
それはつまり、仁吉が現在、非常に弱っていることを意味する。
あの仁吉といえど、今まで体験したことのない衝撃に、一人で耐えきることは難しかろう。


仁吉は今、遠慮なく悲しみ、泣く場所を必要としている。
一太郎はそう判じた。



しかし、肝心のその『場所』は、仁吉を見付けられないでいた。
あろうことか、何があったのかと按じるばかりで、動こうとしなかったのだ。


「仁吉がどうなっちまったのか、非常に心配です。
けれど…今のあいつには常にその身を気にかけてくれて、一緒にいてくれる奴がいるんだ。
他人である俺がしゃしゃり出たら、きっと迷惑になります。」
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