記念部屋でござい
□三周年企画・最近うちの犬の様子がちょっとおかしいんだが
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「はい、どちら様で…。」
大儀そうな姿勢を崩さないまま、佐助がドアを開ける。
すると、音がするほどの勢いで、ドアが外から引っ張られ、全開にさせられた。
「永代。邪魔するぞ。」
「松さん!?」
先輩社員の仏頂面が突然現れ、佐助は驚いた。
「永さーん、お晩です。」
「タクに哲さん、たっちゃんまで…どうなさったんです?お揃いで。」
「いやいや、永代君の同棲中の彼女様の面を拝みたいな、と思ってね。」
にやにや笑いを隠すことなく、哲が言った。
「は?同棲?彼女?何の話ですか?」
「永さん。そんな顔したって騙されませんよ。
ここのところの永さん、様子がおかしすぎるよ。」
「毎日手作りの弁当にお茶、コーヒー。」
「残業も殆どしないで、終われば寄り道せずに直帰。
怪しまれないとでも思ったか?」
「だ、だから、弁当とか飲み物は節約のためで…。」
「自分で名前が言えないような料理、作れるんすか?」
「そ、それは…。」
「永代。諦めろ。彼女ができたのに俺らに発表しないお前が悪いんだ。」
「そうそう。水くさいんだよ。俺らが、同僚に女ができたからって、遠慮して疎遠になるとでも思ったのか?悲しいな。」
「そ、そんなつもりじゃ…というか、本当にいませんよ。彼女なんて!」
「まぁまぁ。言い訳は中でたっぷり聞こうじゃないか。
いるんだろ?モデル体型の別嬪がこの部屋の中に。
今の時間は夕飯作りで忙しいだろうからな。逃げ場はない。」
「逃げ場って何だよ、たっちゃん!
何度も言いますけど、女なんかいませんよ!」
佐助は必死に反論を試みるが、所詮は多勢に無勢である。
佐助はあっさり押し切られ、同僚四人を部屋に強制的に迎えさせられた。
「何だよ、ドタバタと。ご近所迷惑になるぞ。」
低いが、艶のある声。
同僚四人が一斉に、声のしたキッチンの方に目を向ける。
遂に、待ちに待った佐助の彼女とのご対面を期待し、銘々の目は異常なまでに輝いていた。
しかし、声の主を見た瞬間、全員の目が点になった。
「えっ?………男?」
タクが、ぽつりと呟いた。
そこにいたのは確かに、今し方まで夕飯の支度をしていたと思しき、エプロン姿の人物だった。
見目が大層麗しく、背がすらりと高い、モデル体型である。
ファッション誌の表紙にでも出れば、さぞやその雑誌の売上は鰻登りになるだろう。
しかし、その人は確かに、佐助と同性だった。
「あの…どちら様でいらっしゃいますか?」
男が訊ねてきた。首を傾げる仕草もまた、絵になる。
色男なのだ。
「あ…その…俺らは、永代佐助さんの同僚の者です、はい。」
相手の落ち着き払った様子に、突然押しかけてきた自分達のことが恥ずかしくなり、四人はぺこぺこ頭を下げた。
すると、玄関の靴の整理でもしていたのか、佐助が四人に追いついてきて声を荒げた。
「ほら、言わんこっちゃない!
俺に女なんかいませんよ!こいつは俺の」
佐助が喚く。それをすっぱり遮って
「初めまして。永代佐助さんの従兄弟の京橋仁吉です。」
と、仁吉は何ともさわやかな笑みで言った。