よろpixiv

□神獣戯画図
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「若だんな、しっかりなさってくださいな。」


仁吉は甲斐甲斐しく、冷やした手拭いを一太郎の額にあてがう。
しかし、すっかり熱くなっている一太郎の額は、途端に手拭いの冷たさを奪ってしまい、正に焼け石に水の体であった。
江戸は日本橋の大店、長崎屋の若だんな一太郎は、例によって病の床に伏していた。風邪をこじらせて、肺を患ったのである。
連日高熱が続き、咳と痰がひどく、息をするのも危うい状況であった。
そのため、薬も思うように飲めず、店の者達はどうしたものかと頭を抱えていた。

「だめですね。薬を飲まれても、すぐに吐き出してしまう。」

熱と激しい咳で、一太郎の体力は見る見る奪われていった。
するとある日、長崎屋の手代で一太郎の兄やでもある仁吉が、あるものを一太郎に食べさせた。
すると、一太郎は目に見えて元気を取り戻し、三日と経たずに床上げとなった。
おまけに、今までよりも体が軽くなったような心地になり、頻繁に拾っていた病がぴたりと止んだ。
長崎屋の人々は歓喜の涙を流し、今度こそ一太郎が亡きものになることを期待していた親戚たちは、年始の挨拶で一様に顔を真っ青にして帰って行った。
しかし、当の一太郎は浮かない顔つきであった。
なぜなら、
一太郎が病から回復してから、手代の仁吉の様子がずっとおかしいのである。
店表で立ち働く様子は今までと変わらないのであるが、ふとした時に欠伸をしていたり、疲れたようにため息を付いたりするようになった。
しかし、一太郎達に心配をかけまいとしているのか、いくら尋ねても「何でもありませんよ。」の一点張りで、例の、くらりとしてしまうような美しい笑顔の裏に疲れたような表情をしまい込んでしまっていた。
仁吉の相棒である佐助も、彼の様子の変化の理由が分からないでいた。

「仁吉のやつ、この頃殆ど寝ていないようなんですよ。
あたしが寝ようと声をかけても、生返事ばかりで一向に明かりを消そうとしない。
おまけに、最近は夜の誘いにも応じてくれなくて…。前は、若だんなの体の調子が良ければ、けっこう素直に応えてくれていたのに。」

後半は惚気にも聞こえるが、とにかく、仁吉の様子が変であることに変わりはないらしい。
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