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□春の空騒ぎ
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「仁吉君さぁ、若だんなは花見いつ行くの?」


白澤が、いつもの軽薄な口調で訊ねてきた。
現世の薬種屋に品物を納品した帰り、この神獣は用もないのに長崎屋にお茶を飲みにきた。

「聞いてどうするんですか?」

答えの代わりに、仁吉が白澤に問い返す。

「予定が合ったら便乗しようかな、と思ってさ。」

「天国にも桜はあるでしょうに。」

「そうだけどぉ。毎年同じところでやるのはつまんないよ。」

白澤が口をとがらせた。
天国は、常に気候が温暖で色とりどりの花が咲き乱れている。
桜も然りである。

「いつもサクヤ姫ちゃんが管理してる山で花見してんだけど、マンネリでね。」

「それに、女を侍らせることができないから不満なんでしょう?
木花咲耶姫様がお納めの地とあっては、迂闊に天女を連れて行くわけにはいけませんからね。」

「あったりぃー。さっすが『白沢』君、話が分かるね。」

白澤ににやりと笑われて、仁吉は片眉をつり上げる。
何の因果か、仁吉もまた、『白沢』なのである。
主である大妖皮衣の命で、彼女の孫である若だんなこと一太郎に仕え、この長崎屋で人として働いているのだ。

「言っておきますが、若だんなに同道するとあれば、おなごの同伴はだめですよ。」

厳しい声で言ったのは、若だんなのもう一人の兄やで仁吉の相棒の、佐助である。

「分かってるって。そう唸らないでよ。
あ、でも昔馴染みを二人ばかり連れていきたいんだけど、いい?」

「昔馴染み?」

「鳳凰と麒麟。神獣どうしだから前から付き合いがあってね。」

「神獣ですって?」

仁吉が眉をぐっとひそめる。

「白澤様お一人でもかなり目立つのに…更に二人ですか。気を遣いますねぇ。」

大物の神獣が三人も集まって宴となれば、目立つことこの上ない。
厳密に言えば、仁吉とて白沢なのだから、四人の神獣がいることになる。
国どころか天界レベルのVIPが集まるとなれば、警護やら何やらが面倒くさくなる。
若だんなの御身守護第一の兄や達は、早くも難色を示した。

「そこを何とか!お願い聞いてくれたら、欲しい材料格安で卸してあげるから!」

白澤が手を合わせる。
すると仁吉は、四つ玉を取り出し、薬の材料の名を幾つかあげた。
そして白澤と二人、四つ玉を挟んで向かい合い、早速値段交渉を始める。
ぱちぱちと、四つ玉の玉が素早く弾かれ、神獣二人による、何とも俗っぽいやり取りが繰り広げられる。
それから待つことしばし。

「買った。」

「まいどありぃー!」

ぱちり、と最後の玉が弾かれ、交渉は終了した。

「すごい気迫だったねぇ。まるで店表にいるような感じがしたよ。」

「商いは決戦ですからね、若だんな。どんな場所でも、四つ玉が取り出されれば真剣勝負でさ。」

若だんながのほほんと手をたたき、では早速花見の支度をしようと言った。

「白澤様が誘ってくださって本当にありがたいです。
実は、まだ風が強いから、と兄や達は私をまだ外出に連れて行ってくれなかったんです。」

「それはいけない。花の命は短いんだ。
咲き誇っているうちに楽しんであげなくちゃね。」

白澤はにっこり笑った。
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