二次

□排球
2ページ/3ページ

 
「おはよ、夏南! 武春も!」

「おう」

「あぁ」


冬虎の言葉に、自転車の2人が返す。

運転席の黒髪・玄北武春は浮かんだ汗を拭う。


「春ー、2人乗りは違反ですよ」

「確か、スケートボードも
 道路交通法上は禁止だった気がするが」

「マジすかー」


反省した様子も見せず、龍秋が言う。

それから、信号を見て、続ける。


「今日は遅かったですね」

「あぁ、コンビニに寄ったんだ」


返答に、後ろに乗っていた茶髪・後朱雀夏南が
持っていたビニール袋から杏仁豆腐を取り出す。


「玄の奢りー」


いいだろ、と言いながら杏仁豆腐の蓋を開けて、
スプーンの封をに手をかけた。

破ろうとして、スプーンへ意識が向かったところで、
信号が青になる。

武春がペダルを踏んで、
ぐらり、と自転車が揺れる。

そして、


「ああっ!!」


杏仁豆腐が、夏南の手を離れた。

道路へと落ちる。

自転車は構わず進む。


「玄っ、止まれっ」


振り返り、左手で武春の背を叩く。


「杏仁! 杏仁落としたっ、玄の126円!!」

「そんなことで止まるかっ、諦めろ!
 遅刻だって言ってるだろう!」

「オレの朝杏仁はどうなんだよ! あれ朝飯!」

「部活終わったらチョコクロも買ってやるから!」


バカーっ、と叫ぶ夏南に、
おにぎりならあると冬虎。

朝から元気だなぁと欠伸を噛み殺した龍秋は、
思い出したように武春を呼ぶ。


「春、そういえば、体育館裏の駐輪場が
 整備か何かで使えないらしいですよ。
校舎裏使えって張り紙があったような」

「本当か!? 先に行くが遅刻するなよ」

「だそうです、冬」


武春が龍秋に言うと、龍秋が冬虎に言う。

「おう!」と冬虎が返事をしたことを確認し、
サドルに座っていた体を上げる武春。

強く踏み込むと、自転車は加速した。


キャリアでヒラヒラと夏南が手を振り、冬虎が大きく振り返す。

少し先の角で自転車が曲がると、振っていた手を下ろす冬虎。

後ろへと振り返る。


「で、えっと、何の話してたんだっけ?」

「僕らが入部体験出入り禁止の話です」

「ああ、そっか!」


ポン、と手を打つと、すぐに首を傾げた。


「で、何で禁止なんだ?」

「僕らがプラスだからですって」

「?」


ますます首を傾げた冬虎に、龍秋は大きく溜め息を吐いた。

持ち手を握り直す。


「いいですか、僕らの学校のバレー部が、
 他の部と違って異質なのは分かりますよね?」

「えーっと……?」

「入部に制限があるじゃないですか」

「ああ!
 『経験者じゃないと入れない』ってヤツか」


そうです、と龍秋。

角を曲がって揺れた身体を正す。

正面奥に見えてきた学校に携帯の時計を確認した。


「僕たちは、経験者つまり『プラス制限』です。
 でも、それだけじゃ部活は成り立たないので、
 藍原さんたちみたいに経験・未経験問わない『ゼロ制限』の年と、
 未経験者しか認めない『マイナス制限』の年を順番に回しています。
 プラス、マイナス、ゼロの順です」

「うーん、うん」

「僕らがプラスの年だったので、今年はマイナスの年です。
 ……ここまでは分かりましたか」

「たぶん」

「それで、プラスの僕らが入部体験の時にいた場合、
 さて、どうなるでしょう?」

「え、えーっと……」


走りながら考え始める冬虎。

「練習ではミニゲームとかするんですよ」

と龍秋のヒントが入る。


「分かった! 夏南が調子に乗る!」

「近からずも遠からず、です。
 まぁ、はしゃいで本気になっちゃったら、未経験の人は入る気削がれるでしょう?
 だから、僕らの立ち入りは禁止、と藍原さんは言ってました」

「なるほど……?」

「まぁ、本心は恐らく、騒ぐ夏を怒るのに
 バレー部なのに竹刀持ち出す春に引かれないようにだと思いますが」


聞きながら、冬虎は裏門をくぐる。

龍秋が門の段差を上手いことボンレスで避けると、
車輪が地面に着いたことを確認し、
冬虎が体育館へ向けて曲がる。
そして、


「冬、今日は第一じゃなく第二体育館です」

「マジか!」


言われ、ぐるり、とUターン。

龍秋は軽く足をついて勢いを殺した。





.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ