短篇

□神様のわがまま。
1ページ/1ページ



あぁ、この世界に神が存在するのなら、オレは貴方を恨む。

なぜ、最愛の人に刄を向けなくてはならないのか、と。





赤い。紅い。

赤い屍。紅い屍。

赤い刀。紅い刀。

赤い壁。紅い壁。

赤い床。紅い床。

赤い服。紅い服。

赤い。紅い。


この世界は、この空間は、赤くて、紅い。

敵も味方も屍と化し、血に沈んだ。

右手には血を滴らせた、刀。

壁も床も、人間の血で染まる。


服に染み込んだ血。

気持ち悪いとは、もう思わない。馴れた。


真っ赤な世界、空間で、
オレと同じように血を染み込ませた服を着る、女。

彼女。

オレと向かい合うように、存在した。

持っている刀を向けて。


「疲れた」


彼女を見ながら、言った。


「もう、疲れたよ。オレは、疲れた」

「……私も」


素っ気なく、表情一つ変えないで、彼女は応えた。


「私も、疲れた。何もかも」

「じゃあ、」


刀をゆっくり彼女に向けた。


「終わりにする?」

「終わりに、する……?」


彼女は首を傾げながら、言葉を復唱した。

そして、ううん。と首を振る。


「終わりに、してあげる」


彼女の言葉が、合図だった。






あぁ、この世界に神が存在するのなら、オレは貴方を恨む。


なぜ、最愛の人を殺さなければならないのか、と。







タンッ……。

死闘の果てに、倒れたのはオレだった。


けど、オレは刀を、彼女の首に突き付けている


彼女もまた、仰向けに倒れるオレに馬乗りになりながら、オレの首に刀を当てている。


「疲れた」


ふぅ、とため息を吐いた。


「うん。私も」


彼女もため息を吐きながら、言った。


彼女の首に突き付けていた刀を遠くに投げて、言う。


「一緒に逃げようか」

「何で?」

「ずっと一緒にいられるよ」

「うん。一緒にいたいね」


でも、と彼女は刀を退けながら続けた。


「逃げるのはダメ」


だから、と彼女は刀を振り上げた。


「別の方法もあるよ」


ね? と彼女は刀を振り下ろした。


「………っ!」


腹部に鋭い痛みが走った。

見れば、彼女の刀が突き刺さっていた。


「私の勝ち……」


ううん、と彼女は刀を抜いた。


「! ………っ!」


再び痛みが走った。


「私の勝ちじゃない」


だって、と彼女は刀を自分に向けた。


「引き分け、だから」


満面の笑みを浮かべた彼女は、躊躇いもなく、
自らの腹に刀を、刺した。


「うっ……」


痛いね、と彼女は刀を抜き、遠くに捨てた。


「痛い、痛い」


ゆっくりと倒れるように、オレに身体を重ねると、


「これで、ずっと一緒だよ?」


薄らと笑みを浮かべ、目を瞑った。


「そう、かな……」

「うん」


オレは彼女の頭を撫でようとして、やめた。

オレの手は血で真っ赤だったから。


オレもゆっくり目を瞑ると、


「疲れたね。やっと、終わるよ」


彼女からの返事は無かった。






あぁ、この世界に神が存在するのなら、オレは貴方を恨む。


なぜ、最愛の人を先に逝かせたのか、と。





神様。

オレはいままで、生まれて死ぬまで、貴方の思うとおりに生きた。

貴方のわがままを聞いた。


今だって、彼女と戦え、という貴方のわがままを聞いた。

彼女に殺されろ、というわがままも聞いた。


だから、今度はオレのわがままを聞いてくれ。


――――彼女と一緒にいさせてほしい。


それだけでいい。

彼女といたい。

それだけが、オレの全てだ。

生まれてきた意味だ。


もし、そのわがままを聞いてくれないなら、オレは貴方を恨む。


なぜ、オレをこの世に生んだのか、と。












――― end.
>

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ