絆 -きずな-

□第4話 案内とA倉庫
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「15階が鍛練場。
 14と13階がマリアの個室。
 12、11、10がサポーターの個室。だけどほとんどいない。
 その下2階分が捜索部隊の個室」


エレベーターに乗り込みながら光は言った。


「サポーターは本部にはいないんですか?」

「あぁ。ほら、外で色々。調べたり、探したり、とか? 知らねェけど」


一星の問いに答える。

13階のボタンを押そうとして、
少し迷ってから押さずに地下3階を押した。


「7階が司令官関係、6階が医療班の個室。
 5、4が病室で、3階は大浴場。シャワーだけなら部屋にありますけどねィ。
 ――――で、2階が食堂とか談話室とか、なんかそーゆー、
 人がゴミみたいに群がるとこ」

「ゴミって……」

「何でィ。じゃあ、クズか? 蟻? とにかく、下等生物が群がってる。
 それで、地下1階は科学班の個室で2階が研究室。
 地下3階は指令室と資料庫。4階も資料庫だったか?
 最下層は食料庫。立ち入り禁止」


言い終わったところでエレベーターが停まる。

電光表示はB2。

ドアが開いて、段ボールの山が現れた。

横から緑髪が覗く。


「あー、光じゃないですかー。入れますかー?」

「多分」


緑髪の少年――――
水月は台車を押して中へ入る。


「どこ」

「Aそーこ。光はどこ行くんですかー」


水月の答えにボタンの前で止まっていた光の手が降りる。


「本間さんとこ」

「あーちょーどいーですねー。コレ片すの手伝ってくださーい」

「ヤだよ」

「いーじゃないですかー。どーせ直で来たんでしょー?
 今行ったら怒られますよー」


あー、と光は呟く。

止まったエレベーターから降りながら、


「それもそうか」

言った。


「やったー」

声色も表情も変えることなく水月は言い、
台車を押して廊下を進む。

3人は司令官室の前を横切り、突き当たりの扉の前へ。
扉を引く。


「ありゃー、鍵閉まってますねー」


ガチャン、という音がして、扉は開かなかった。

水月は振り返って光に言う。


「開けてくださーい」

「鍵ねェだろィ」

「実はー、こんなの持ってまーす」


ジャーンと起伏のない声で効果音をつけながら、
白衣のポケットからヘアピンを取り出した。


「ここ単純な作りだしー、取りに戻るの面倒だしー」


ヘアピンを手渡された光は仕方なさげに扉の前にしゃがみこむ。

鍵穴を覗き込んだ。


「まー、開かなくはないな。
 リンゴ1個でやってやりまさァ」

「後払いでー」


水月の答えに、光は鍵穴にヘアピンを差し込む。

程なく、


「開いた」


光の声とともに解錠の音がした。

後ろで感情のこもっていない拍手と、
驚きの混じる感嘆。

光は扉を引く。

水月は中へ入りながら、


「さすが光ー。そんけー」

言った。


「嘘吐くな」

「イオは正直ですよー?
 ただ、気持ちがこもらないだけでー」

「こめろよ」

「無理でーす。込める気持ちがありませーん」

「ねェのかよ」


言葉を交えながら、広い倉庫の奥へと進んでいく。


図書館のように本棚が並んでいる。

側面に『科学班』と書かれた棚の中から空いている棚を探す。


しばらくして棚を見つけると、
そばに台車を止めた。

水月は段ボールを台車から下ろしてガムテープを剥がす。


「えーと、鈴城? くん、
 コレ、そこの棚にー、持ってってくれますー?」

「あっ、はい」


大量のファイルを手渡され、一星は指定された棚へと運ぶ。

水月も中から取り出して別の本棚に並べていく。

光はそれを見ながら、
壁に寄りかかって大きな欠伸をした。


「ちょっとー。光もやってくださいよー。
 手伝うって言ったじゃないですかー」

「鍵開けたし」

「もー、それだけー」


ほらー、と光にも数十冊のファイルが渡る。

光は面倒臭そうに一番上のファイルを開いた。


中には筆記体の英文と
大量の図、表、グラフが書かれている用紙が挟まっていた。


「何コレ」


光の声に、機械的にファイルを片しながら水月は答える。


「はんちょーのけんきゅーしりょーですよー。
 確かー、光のソレは発弾後の銃弾軌道操作についてとかー、
 軽反動連射式銃開発とかー、
 超長距離分解式ライフル開発とかー」

「……全部銃かよ」

「そーなんですよー。やたら銃開発に勤しんでてー。
 なんかー、昔誰かに頼まれたらしくてー。 他にも仕事あるのにー。
 ――――あ、鈴城くんー、コレもお願いしまーす」


光に説明しながら一星に追加の仕事を頼む。

一星はそれを受けとり、棚に置いていく。


水月はもう1つの段ボールを開けた。

光が近くへ来て覗き込む。


「こっちはー、壊れた電子機器ですー」

「何で倉庫に入れんでさァ。旦那なら直すだろィ」

「言ったでしょー、他にも仕事があるんですよー。
 それでー、しばらく直せないから、一時的にこっちに置いとくんですー」

「ふーん」

「コレはそのまま端に置いとけって言われたんでー、光のそれ片したらお終いでーす」


早く早くー、と言われて光も棚にファイルを仕舞う。


「ごくろーさまでしたー。いー時間潰しになりましたー?」

「まぁまぁ」

「光たちー、これから仕事ですかー?」

「多分」

「あー、じゃー、安房ですよー。最近はんちょーがよく言ってるしー」


光は
「ふーん」と呟く。

出口へと向かいながら、


「どこでも一緒だろィ」

言った。


「ほら、行きやすぜィ、新人くん」

「はいっ」


光に言われて一星も後を追う。


「気を付けてー」


ひらひらと手を振って水月は言った。







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