絆 -きずな- 番外編
□秘密の話。
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長い長い、重い溜め息を吐いた。
そちらを見遣ると、
執務机の上の、書類の山に囲まれた本間さんの筆が止まっていた。
また溜め息を落とす。
「なした」
部屋の反対側から声をかける。
本間さんは、何でもないよ、と笑った。
「…………」
“それ”は知っている。
本気ではない笑顔。
一瞬固まって、
困ったように笑って、
また溜め息を吐くその所作。
声をかけたその時の、
気付かれた、と言いたそうな顔。
知っている。
本間さんの心に強くストレスが掛かっている証拠。
強く、というか、積もっているというか。
ストレスのメーターを隣に並べるなら、
70%を越えた、というくらい。
本間さんにコーヒーを差し出す。
こういう時は、何も入れない。
ブラックコーヒー。
「夢ちゃん?」
深くは尋ねない。
きっかけは、小さくていい。
この小さな問いで、本間さんは頼んでもないのに教えてくれる。
コーヒーを一口飲んで、うん、と頷いた。
「夢ちゃんがさ、最近ピリピリしてるじゃない」
「ん」
“それ”も知っている。
それの“原因”も知っている。
「そのピリピリが痛いっていうかさ、
そりゃ、僕が仕事終わらないのがいけないんだけど……」
知っている。
この人が勘違いしてることも。
心配症、過剰。
知っている。
「こうぇあだば休みいん」
「え、あぁ……、うん。
でもほら、まだまだ仕事があってね、
これ以上待たせたら夢ちゃんに怒られちゃうし……」
気遣いしすぎて死にそうだな、この人。
夢ちゃんは本間さんに怒ってるわけじゃないのに。
「本間さんは、かばねやみしちゅーわけじゃね、気にすんでね。
他のこととか他人のことは、あげたさもつけね、
ちと、いくれてんげでもえぇじぇ。
やっぱはまるから、うざにはくんだべ」
言うと、少し固まってから笑った。
“これ”も知っている。
「ありがと、大和くん。
ちょっと楽になったよ」
「ん。本間さんは頑張ってんべ」
「うん、じゃあ、もう少し頑張ってみるね」
だから、それがダメだって言ってんだろ。
「そか。
つりたりつりたり、休みながらやんべよ」
本間さんはふわりと笑う。
知っている。
気が楽になったときの反応。
荷が下りたときの反応。
心配事がなくなったときの反応。
「じゃ、俺はちと出てくるけ、よか?」
「うん、分かった」
笑って、小さく手を振る様子に、
まぁ、大丈夫そうだなと思う。
今度は夢ちゃんか。
根本的な原因はそこではないけど。
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