絆 -きずな- 番外編

□チョコレートバースデー。
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「なぁあ、川ちゃんセンセ結婚するらしいじゃん」

「へぇ、知らんちゃ」


寮が同室のとニコラスと言葉を交わしながらアカデミーの校門を潜る。

キャッキャとはしゃぐ女子とすれ違い、
その甘ったるい香りにため息を落とす。

校舎に入り、靴を履き替えるために下駄箱を開ける。
そして、


「…………」


雪崩れるように降ってくるカラフルな箱たち。
ため息。


「ひゃぁ……、相変わらずすげーなロベルト」


隣で苦笑するニコラスにもため息。

靴を履き替え、下駄箱を閉める。

綺麗な包みたちを一瞥し、教室へと歩き出す。

後ろで、ニコラスが紙袋を広げる音がした。


「ロベルトくん、ロベルトくん」


と、階段を上っている途中で
上から降りてきた女子3人が手を振りながらやって来て、
手に持っていた紙袋から、可愛らしい袋に入ったチョコレートを差し出す。

そして、


「ハッピーバレンタイン!」


口を揃えて言った。


「…………」

「生チョコ作ったの、良かったら……」

「いらね」


遮って言い、3人の間を通り過ぎる。

その後ろで、


「ロベルトへのチョコはこんなか入れてー」


追い付いてきたニコラスが、女子に向けて紙袋を開いた。
ため息。


階段を上がりきり、
一番奥の教室に入るまでに同じことを何度か繰り返し、
ようやく教室の戸を開ける。

教室の中まで甘い匂い。

自分の机の上に置かれた大量のチョコレートに、
本当にもうため息しか出ない。

ニコラスが新しい紙袋を開き、俺がその中へチョコを放っていく。

机の中を覗けば、そこにも入っていて、紙袋の中に捨てる。


「ロベルトー」


ニヤニヤと愉しそうに男子が来て、
女子と同じように包みを差し出される。


「ほら、ハッピーバースデー」

「…………」

「はーい、どーも。
 バースデープレゼントもこんなかねー」

ニコラスが紙袋を渡し、それを受け取った男子が包みをしまい、
そのまま紙袋を持って教室を回る。

帰ってきた紙袋は悪ふざけの男子からのプレゼントでいっぱいになっていた。

バカがいっぱいいて困る。

ため息を、


「いぃなぁ、全部チョコぉ?」


落とす前に後ろから声がして振り返る。

空のような青い髪がサラサラと揺れる。


「ロベルトいぃなぁ、
 セーラも食べたぁいぃ」

「いらねからやるっちゃ」

「ほんとほんとほんと?
 やったぁ!」


ピョンピョンと跳ねて紙袋から数個手に取る。

リボンを解き、ミニタルトを口へ入れる。

美味しそうに食べた後、セーラが首を傾げた。


「ロベルト、モテモテぇ?」

「そりゃこんだけもらってるからな!」


えへん、となぜかニコラスが胸を張る。

その頭を叩いて、


「今日のー、誕生日じぇー。
 ころっと悪ふざけだべ」


言うと、セーラはそっか! と手を打った。


「誕生日とバレンタイン一緒だと、いっぱいチョコもらえていいね!」


キラキラと笑うセーラにさっき落ちなかったため息が落ちる。


「俺ァ、チョコは嫌いだべ」

「じゃあ、セーラが全部もらっていいぃ?」


会話のうちも紙袋には新しいチョコが投げ入れられる。

それが、誕生日プレゼントなのか、
それともバレンタインチョコなのかは解らない。

3つ出来上がった紙袋の1つをセーラに差し出すと、喜んで受け取った。


「で。何しにきたんちゃ?」


隣のクラスのセーラに問うと、生チョコを口に放りながら、


「そぉ、あのねぇ、教科書貸ぁしてぇ」


言った。

はいはい、と廊下のロッカーの鍵を開け開く。

と、中にラッピングされた大きめの箱。


「…………」

「イエーイ、ハッピーバースデー!」


パーン、と、俺の隣でクラッカーが鳴る。

その紙吹雪を受けながら、セーラを見る。


「さぷらぁぁぁああいず!!」


セーラが嬉しそうにケタケタと笑った。


「…………何」

「さぷらぁぁぁああいず!!」

「いや、鍵……お前…………」

「鍵くらいささっとできるよ!
 イエーイ!」

「いえーい…………」


両手が差し出され、ハイタッチを交わす。

セーラはロッカーから教科書を取ることなく、
足元に置いたチョコの紙袋を持って、


「チョコじゃないよ、プラモだよ!
 じゃあ、これなくなったら、おかわりにくるね!」


ヒラヒラと手を振りながら廊下を走っていった。

残されたプレゼントに、ため息は落ちなかった。






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