(仮)

□第4話
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上を見れば青い空と白い雲。

下を見れば一面の緑。


そんな小高い丘に唯一生えている大きな木の下に、
2つの人影があった。


「ねぇ、まだ?」


木陰で寝転がった赤色の髪を一本に結った少年が言った。


「まだ」


木に寄りかかって座り、
本を読む青い髪の少女は答えた。

そして、続ける。


「その質問、6回目だよ。
 我慢が足りないんじゃない、睦月」

「うっせぇ!
 何分経ったと思ってんだよ、如月!」


睦月と呼ばれた少年が言うと、
如月と呼ばれた少女が答える。


「30分。5分おきに同じ質問されるボクの身にもなってみてよ」

「あーっ!! ムカつくっ!」


睦月が叫ぶと、睦月の足元の方から、


「これをやったのはお前たちか」


低い声が尋ねた。


その声に如月は本から視線を上げ、
睦月は体を起こした。


「上条優さんですか?」


パタン、と本を閉じて、如月は言った。

優と呼ばれた男はゆっくりと頷いた。


「そうですか。
 では、おとなしくしていてください」

「待て! 質問に答えろ。
 これをやったのはお前たちか、そう聞いている!」


指を差した先には、転がる10体の死体。


「…………」


黙った如月に、優の額に嫌な汗が浮かぶ。


しばらくの静寂の後、


「答える義務はな―――」

「俺らじゃないぜ」


如月の言葉に、睦月が別の言葉をかぶせた。


「ちょっと、睦月」

「いいじゃねぇか、事実だし。
 ―――オッサン、これをやったのは俺らじゃねぇ。
 コイツだけだ」


ビシッ、と如月を差し、睦月は笑った。


「……正当防衛です。
 ―――そんなことより、上条さん。
 そこでおとなしくしていてくださいね。
 すぐに終わります」


カチャという音を立てて、如月が銃を向けた。


「な、何をする気だ!」

「何を? 仕事ですが?」

「仕事だと!?」

「はい。とある方に貴方の殺害を依頼されただけです」


ジリ、と優が半歩退く。


「一体、誰が………」

「依頼人(クライアント)についてはお教えできません。守秘義務――――」

「オッサンのよく知ってる人だ」


再び、如月の言葉を遮って睦月が言った。


「睦月!」

「いいじゃねぇか。どうせ死ぬんだ。
 少しくらい平気だって」

「そういう問題じゃない」


2人が言い合っている間に、
優は確実に退いていく。


「堅いんだよ、お前は」

「うるさい」


パン!


「――――っ、あ!」


睦月を向いて、睦月を咎めながら、
如月が引き金を引いた。


その弾は的確に優の足を撃ち抜いた。

ガクン、と優は足を付く。


「おとなしくしていてください、とお願いしたはずですが?」


右手に握った自動式の銃を置く。

ゆっくりとした動作で立ち上がった如月は、
コートに付いた汚れを払い、置いた銃を仕舞った。


トコトコと優の下に向かう。

それを見て、睦月も立ち上がり、続く。


「待ってくれ! 何をしたと言うんだ!
 俺は誰にも迷惑はかけずに生きてきた!
 上司の言うことに従って、仕事もしっかりやってきただろう!
 何故……、何でだっ!!」

「さぁ、何故でしょう。
 貴方には見えていないものがあるんですよ」

「頼む、頼むよ……!
 妻が、子供がいるんだ!」


顔色1つ変えることなく、如月は言う。


「気にすることはありません。
 彼女たちも幸せになりますよ」


カチャ、と左手に持った回転式の銃を向ける。


「や、やめてくれ! 命だけは助――――」


ズドン。


くぐもった音とともに、
如月の握る大口径の銃から弾丸が放たれた。


前のめりに倒れた優の脈を睦月が手袋をした手で確かめる。


「――よし、OK」

「じゃあ行こう」


 睦月の言葉を受け、如月は歩き出す。


「片付けねぇの?」

「そこまでは依頼されてないからね」

「足つかねぇ?」

「ボクはそこまでバカじゃない。睦月はバカだけど」


階段を降りた如月は、


「で、どっち?」


振り返って睦月に尋ねた。


「………お前もバカだろ。方向音痴」

「方向音痴はバカではないよ」


で、どっち? と再度尋ねる。


「車はコッチ、依頼人の家はコッチ」


左右を指差した睦月の前で、


「じゃあ、こっち」


と右を向いた如月。


「依頼完了を伝えないと」

「おーう」


2人は依頼人の家へ向けて歩き出した。














――― end.

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