(仮)

□第10話
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「如月ー、なぁ、本当悪かったって。
 な? だからドア開けろって」


ドンドンと目の前のドアを叩きながら、
赤髪の少年・睦月が言った。


「如月ー? 如月ってばー。寝てんのか?
 なぁ、如月ー。きさら、ぎぃ……」


張っていた声が小さくなるに連れてドアを叩いていた手が止まる。

しばらく床に視線を落とした後、


「あ、あのさぁ!」


再び声を張って言う。


「寝てるならさぁ、別にいいんだけどさぁ……、
 もし! もし起きてるんだったら、
 今から俺が言うのは独り言だから、あの……。
 む、無視していいから!」


物音1つしないドアの中へ向けてたどたどしく言葉を紡ぐ睦月。


「あの、さっきのは、その……、何も考えないで言ったつーか……、
 あ! いや! 言い訳じゃなくて!
 えっと、如月が……あの、その……、
 まだアイツのこと引きずってるとか、そういうの気づかなくって……!」


えっと、えっと……。と言葉を選びながら
見えない相手に話を続ける。


「んと、えっと、それで……、あの……。
 お、俺のことは許さなくてもいいから!
 話しかけんなってなら俺、話しかけねぇし、俺なんか見たくもねぇってんなら、
 如月が部屋出るときは俺、できるだけ自分の部屋にいるようにするから……!
 いや! むしろ、出てけって如月が言うなら出ていくし!」


無意識のうちに大きくなっていた声に気が付き、
睦月ははっとして声量を下げる。


「だ、だから、あ、えっと……」


少し言い悩むように視線を泳がせ、
たっぷり数十秒経ってから、


「あ、あのな、その……」


再度口を開いた。


「ま、舞弘が、心配……してるからさ、
 は……早く、出てこいよ……?
 きょ、今日の夕飯さぁ、如月の好きな―――えっと……、あの、その、
 如月が好きなヤツ作るって言ってたから……。
 あの、えっと、夕飯の時は出て、こいよな。
 舞弘が、すごく……心配してる、から……」


なんとか言い終えると、


「そ、それじゃあ、俺、行く、から」


言って、如月の部屋から去る。


一度、自室へと戻り、愛用のコートを羽織る。

階段を降りて、リビングの前に通りかかった時、


「出かけるん?」


リビングから廊下へと顔を出した茶髪の少年、
舞弘に声をかけられた。


「ん、あぁ……。えっと、如月が……、
 マカロン食べたいって言うから」

「そか」


 困ったように笑った睦月に、舞弘は短く答えた。

続けて、


「雨が降りそうやから、一応カサ持ってきぃ」


歩き出した睦月の背へと言った。


「おう」


片手をあげながら返事をした睦月は廊下の角を曲がる。

その先にある玄関から外に出ると、


「雨、か……」


黒い雲に覆われた空を見上げ呟いた後、
大通りへと向けて足を踏み出した。













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