絆 -きずな-

□第3話 適性試験(後編)
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午後1時。


「では、結果を発表します」


整列する受験生の前で陸が言う。


「今回の合格者は――――」




「ゼロ!」




陸の言葉にかぶせるように、
入り口の方から声がした。

その場にいた全員がそちらを向く。

そこには3人の人間が立っていた。


「俺、ゼロ希望!
 合格者ゼロにチョコレートパフェ賭ける!」


1人は、陸と同い年くらいの銀の髪の男。

陸と同じようなワイシャツに黒ズボン、その上に白衣を羽織っている。

どうやら、先程叫んだのも彼のようだ。


「じゃあ、青は合格者なしにショートケーキ賭ける!」


それに続いて、隣に立つ青い髪の女は元気良く手を挙げて言った。

身長は160cmほどで、瞳が大きく一見すると少女のようだが、
黄色いワンピースを纏う身体は少女でなく、女性のそれだった。

そんな彼女もワンピースの上から白衣を着ている。


「それ、全くもって賭け事になってませーん」


感情の起伏のない、やる気の全く感じられない声で突っ込んだのは、
2人の後ろに立つ緑色の髪の少年。

パーカーにジーパン、サイズの合っていない白衣の少年は、
光や25人の少年少女と同じくらいの年齢だが、
年の割に背の低い光よりもさらに10cmほど背が低く、145cmあるかないかくらい。


「それは大丈夫だよ!」

「?」


女に言われ、少年が首を傾げたところで、男が言う。


「お前が全員合格に賭けりゃいい」


「わかりましたー。
 イオ、誰か合格するに賭けまーす。
 イオが勝ったら、仕事してくださいねー」

「バッカか、お前。光が負けるわけねぇだろーが」


全員に賭けろと言ったくせに、男は声に出して笑う。


「いやー、案外、
 光をグチャグチャのベチョベチョに解体(バラバラ)にするヤツがいるかもですよー。
 首はねられて死んだかもですー」

「光は死なねぇよ」

「アンドロイドですかー?」

「そーそー!」


男が何故か胸を張って言うと、
我慢の限界だと言うように、陸が怒る。


「違うからっ! 直くん、邪魔しないで!」

「お? あぁ、陸。悪ィな、
 俺らのことは気にすんな。なぁ、青空」

「そうだよ! 青たちのことは気にしないで!
 ね、浅やん」

「気にせず、続けてくださーい」


陸は不満そうな顔をしたが、
受験生の後ろに立ったまま動こうとしない3人を見て諦めたようで、
咳払いをした後、話を再開した。


「改めて……。今回の合格者は―――」


再び静まり返る会場。



「―――鈴城一星くんです」



発表された途端、騒がしくなる。

名を呼ばれた当の本人は開いた口が塞がらない、というような感じだ。


その中で一番うるさかったのは、案の定、


「嘘だぁぁぁあああぁぁ!!」

男・吉北直樹と、

「ショートケーキー!!」

女・春風青空と、

「合格者が出たってことは、やっぱり光は死んだん――――イテ。
 何するんですかー、アンドロイド光」

リンゴを投げ当てられた少年・浅見水月。


「合格理由は、沖田くんの刀を止めたからです」

「はぁ?」


陸の言葉に茶々を入れたのは、光。


「俺が勝ったのに。
 ってか、それならマジにならなくても良かったじゃねェですかィ」


しかし、それは華麗に無視して、陸は言う。


「それでは、鈴城くん以外はお引き取りください。
 あぁ、もちろん先生も」


ニコリと微笑んだ陸を見て、
夢と大和は一星以外の生徒と教師を部屋から出す。

その際、教師は陸を呼んだ。


「はい、何でしょう」


近くに駆け寄ってきた陸に、教師は話し掛ける。


「あの少年は何なのですか……?」

「何って、マリアですよ。マリアの沖田光。
 マリア最弱です」


ニコリと微笑んだまま陸は静かに続ける。


「10年前の例外、10年前の異端、マリア最強に育てられた最弱―――。
 そう言えば、貴方ほどの教師なら、
 思い当たる人物が1人、いるでしょう?」

「ま、まさか……!」

「はい、そのまさか、です。
 10年前、アカデミーを卒業することなく、まして入学することもなく、
 年齢制限のあるココ、クロス本部に、
 マリア20人を戦闘不能状態にすることで入隊した子ですよ」

「そん、な……」

「当時、僕は司令官助手でしたが、アレに立ち合った僕は驚愕しました。
 たった7歳の少年に、たった数分で大人20人が負けたんですから」


陸は
「喋り過ぎました」と背を向けた。


「今回は運が悪かったですね。試験官が沖田くんだなんて。
 あぁ、鈴城くんが受かったからって喜ばないでくださいね。アレは僕の、」


 気紛れです。



 陸はツカツカと歩き始めた。


「さぁ、お引き取りください。下で部下が待ってますから」


教師の目の前で扉が閉まる。

茫然と立ち尽くす教師に後ろから声がかかった。


「聞かん方が良かったっちゃ?」

「…………」

「本土に戻るべ」

「………えぇ」







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