絆 -きずな-

□第11話 空気破壊
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日本国・安房、某村某ホテル某室。


「うだー、疲れたー」

「何もしてないよ、兄さま」


凍弥がベッドへと飛び込んだ。

金髪に乗せた王冠は落ちない。


「んー、港から歩いたし」

「3分だけね」

「雪積もってた。今4月じゃん」


枕でくぐもって聞こえる声に、
雪姫が「そうだね」と返し、隣のベッドに座った。


「姫ー、今何時?」

「12時10分です」

「よし、飯を食おう!」


雪姫の答えに、凍弥が枕から顔をあげた。


「一星呼んで来て。飯ー」

「いいんですか?
 捜索部隊の方はまだ来てませんが」

「いーじゃん。オレ腹へったし。
 ってかさ、捜索部隊とホテル別とか何事?」

「あちらのホテルには空きがないそうで」


聞いておきながら
「ふーん」と興味無さそうに呟く凍弥。


ぐぅ、とお腹がなって、
凍弥は再び枕に顔を埋めた。


「腹へったー」

「はいはい」


雪姫は苦笑して、
「呼んできますね」と声をかけて部屋から出た。


隣の部屋のドアをノックして返答を待つ。


ほどなくして、内側から開いた。

一星が顔を出す。


「昼食にしましょう」

「あ、はい。そうですね」


雪姫は一星が頷いたことを確認すると、
凍弥の待つ部屋へと戻る。

それに一星も続く。


「戻りました」

「失礼します」


それぞれ言いながら部屋に入ると、


「何でもいいから飯ー」


ベッドに寝転がった凍弥が出迎えた。

傍に来た雪姫に言う。


「姫、何でもいいから頼んできて」

「分かりました。いーちゃんはどうしますか?」

「あ、僕も一緒に行き―――」

「一星も何でもいいよな」


一星の言葉を遮りながら、
ぐい、と腕を引っ張る凍弥。


「え?」

「な、別にいいよな」

「は、はい……」


否定を許さない笑みに、一星は頷く。


「じゃ、姫。行ってこい」

「はい」


雪姫は返事をすると、再び部屋から出ていった。



「…………よし」


雪姫が去ったのを確認してから、
凍弥は掴んでいた一星の腕を離す。

次いで起き上がると、
自分の隣を叩き、座るように促した。

一星がその通りにベッドの端に腰を下ろす。


「なぁなぁ、お前さ、何考えてんの?」

「? えっと……?」


質問の意味が分からずに一星は首を傾げる。

凍弥はそんな一星に首を傾げた。


「今、何考えてんの?」

「それはえっと、どういう……?」

「オレは、お腹すいたなーって思ってる」


真顔で言った凍弥に
「あぁ……」と一星が呟いた。


ふわりと、当たり障りのない笑みを浮かべ、


「そうですね、僕もお腹すきました」


言った。


「あとー、疲れたなーって思ってる」

「僕はあまり疲れてはないですね」

「あとあとー、何で一星はマリアになったのかなーって思ってる」

「…………」


しばらく静寂が流れる。

凍弥に見据えられた一星の瞳が、ふらふらと泳ぐ。


「え、えっと……」

「何で?」


こてん、と凍弥が首を傾げた。

一星は逡巡し、けれど、諦めて答える。


「……僕、家族がいないんです。小さいときに、亡くなって。
 その頃の記憶はないんですけど、家族が死んだ時の情景だけは、よく覚えてます」

「うんうん」

「孤児院の先生は事故だって言ってたんです。
 でも、僕、知ってるんです。
 僕の家族は、殺されたって」


凍弥はその一星の言葉を受け、


「ふーん、それで?」


シリアスな内容に似付かわしくない相づちを討った。









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