旋律の刄

□聖女略奪
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辺りには誰もおらず、がざがさと走る音だけが辺りに響く。森は薄暗く夜の闇が辺りの静けさを表すようだ。



人間の肉眼で見付けるのは至難の技だ。
音は一旦止み、闇に蠢いている三つの影は城壁を越えて、その中に入っていった




黒いマントに仮面を被っている為、表情はわからないが、体格から男だとわかる。
無駄な脂肪が無く、引き締まった筋肉が時折マントの中から見えた。
一人の男が残りの二人に指示を出す。



「聖女を略奪するのが今回の我々の任務だ。敵の魔力がSSSクラスを越える者がいるという情報もある。心して向かえ。必要ならば聖獣化しても良い。では行くぞ」



夜の闇に男の声だけが響く。
声からして、三十代前後といったところか。




「御意」
低く冷たい声が辺りに響く。
それを発したのは黒いコートを身に纏い、フードを被っている為に素顔が見えないが声で青年だと分かった。



「…」
ホワイトタイガーの上に股がり、その頭を暢気に撫でている子供からは返事がない。




「おいっ!ナンバーZ返事をしろ!」
フードを被っている青年が返事のないナンバーZと呼ばれた黒いマントの子供に怒鳴りつける。
声からして、苛ついているのだろう。



ナンバーZはマントの中から手を出し顔を覆っている仮面を外した。
悪魔のように妖しく笑い、赤い瞳で青年を見つめた。
顔つきが顔つきのためか、少女のようにも見える。



「わかったよ。聖女さえ奪えば他に何してもいいんだね?ルマニティ」



「構わぬ、リリアーだが力の暴走だけは勘弁してくれ」
リーダー格であるルマニティはそう言いながらナンバーZであるリリアーの頭を優しく撫でた。



「ふーん、何してもいいねぇ。面白くなるな…」
その様子を傍観するように見ていたフードを被っている青年は口角をあげ、誰にも気づかれないように笑みを浮かべた。




「行くぞ!カルゼウ、リリアー」
ルマニティが動き出すとカルゼウとリリアーも行動を開始した。
事が起こる三十分前、聖女アシャー・ロベルト・ハルディーヤは星を詠み、で知り、見てしまった。
これから何が起こるのかを。
しかし誰にもこの事を伝えなかった。アシャーが言えば誰もがそれを信じてくれる。
彼女の星詠みは正確で、今まで外れたことは一度もない。
故に迫り来る最悪の事態を全て防いでこれた。




今回も兄であるロクシュエに伝えれば全て解決するだがそれをアシャーはしなかった。
アシャーは星詠みで見た、ある人に会わなければっと思ったのだ。
今までに行方不明だったあの人に話さないといけない事があった。
だがあの人が自分の話を聞いてくれるだろうか。それだけが心配であったがこれは絶対に話さなければならない。
何があっても。アシャーの瞳は何かを覚悟を決めたように迷いがなかった。



それから数分後。リリアー達が城内に突入してきて騒ぎが起こった。



アシャーは騒ぎが起こったことを確認したら、直ちに行動を開始した。
あの人を早く見つけなければ。
それだけが、アシャーの内に募っていく。



リリアーはホワイトタイガーのカノンと行動を共に、していた。
カノンが目の前にいる兵士たちを蹴散らしながら先に進んでいる為リリアーは戦う必要がなかった。
もっとも、それはリリアーを暴走させない為である。



「リリアー。あと5m先に聖女らしき女がいるぞ」
狼の獣だからカノンには遠くにいる聖女アシャーが見えた。


「…ふーん。じゃあさっさと捕まえるよ」
聖女なんぞには興味ない、どうでもいいといった素振りを見せているリリアーはカノンから降りて、アシャーに近づいた。

「誰っ!?」


「 捕まえた。ボクからはもう逃げられないよ。…うっ!…おまえ!!…」
アシャーの手首を掴んだリリアーが糸が切れたかのように倒れる。
アシャーはリリアーの記憶を見てしまった。
見てはいけないものを見てしまった。
アシャーの表情が悲しみに染まる。



「これは…!」
無意識にも、悲痛な叫びが口から漏れる。
「全部がお姉様の記憶なの?…この記憶通りだとお姉様は…」
姉の過去を知ってしまった妹は愕然としてしまった。


「グッ……アシャー……わた、しの…か、こを…見たのか…!?」
一度自我を手放すと表に出れなくなるのがわかっていたリリアーは自我を保つのに精一杯だった。



「はい…申し訳ありませんです。し、しかしお姉様はなぜ九帝剣なんかに入ったんですかっ!!あそこはこの国全体に反逆する人が集まるところですよ!!あんな所にお姉様が入って欲しくなかったです…」
アシャーはリリアーが九帝剣に入った事実が信じられず、声を荒らげる。


姉は数年のうちに随分と変わってしまっていた。
優しくて明るかった姉は今では凶悪犯罪組織九帝剣に入っているのだ。



「でも、お姉様はお姉様です!私がお慕いしていたお姉様に代わりはありません。私をおですから側に置いてください。邪魔にならないようにします。心配なんです。私には色々な未来が見えてしまうから」



星詠みの力で見てしまったものは変えられないそういう運命なのだ。運命を変えることの出来るのは極僅か。それを出来るのは自分達の父である、ハールディヤ皇帝だけなのだ。



「いいだろう。その代わり私の手伝いをしてくれ」
自我を取り戻したリリアーはアーシャに手を差しのべた。


「はいっ!」
アーシャ満面の笑みをリリアーに向けその手を取った。
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