妄想なのである。

□さえゆひ〜始まり〜
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「祐飛、あの子は?」

「あぁ、あいつは…、」

「こらっ。口悪い!」

お稽古場でさえちゃんは、いつも私にこう言う。

うるさい母親のような…
でも、正直嬉しい。

組子の下級生を私に尋ねてくる。

りかさんや、くららや、ひろみじゃなくて私に。

さえちゃんは、名前と愛称を聞くと、"わかった"と言って、下級生の所に行ってしまった。

私は、一人で顔がニヤついていたのか、

「祐飛、仕事だ。」

こうさんに怒られてしまった…。

「でも、よかったね。
結局、元のさやにおさまったか。」

「こうさん!!」

「私が知らないとでも思った?
あんた顔に出てるよっ。」

「えっ!?」

得意なポーカーフェイスがっ。
私は、稽古場の鏡で顔を見た。

「嘘っ、うそ。さえこから聞いたの!!」

「さえちゃんが?」

「そうだよ。
"こうさんには、迷惑かけたから"って、今朝入りの時にね。

に、しても祐飛イジめるの面白い。」

「はぁ、もうからかわないで下さいよ。

まぁ、確かにこうさんにはお世話になりました。」

「ははは。まぁいいよ。二人が幸せならさ。」

「二人で何話してるの?」

さえちゃんが私たちの元へ来た。

「えっ?いや、こうさんに言ったんでしょ?」

「うん。ダメだった?」

「別にいいよ。」

「なんか色気のないカップルだな。」

「こうさ〜ん。そんなことないですよ〜。」

「舞台の上では、二人とも色気爆発だけどね。」

そう言ってこうさんは片手をひらひらさせながら、私たちのもとを去って行った。

「ねぇ、あの子役の子は?」

また、"あの子誰?"が始まった。

なんか、さえちゃんが月組を離れてから随分経つんだな…。

「あっあの子、祐飛の下級生の頃に似てる。」

さえちゃんが、指差す方向を見ると

「あぁ、あれは研2の集団だったかな。
…ってあい…あの子?
似てないよっ。」

「似てるよ!」

その集団で一人茶色い瞳をした奴を、私に似ているとさえちゃんは、言い張る。

「あの子たちの学年くらいだったよね?
私と出会ったの。」

「そうだったかな。」
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