少女よ翼を抱け

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私の家計というのは、そこまで悪いというものでもなく、また良いというわけでもなかった。

ただ数年前父親と母親は不慮の事故で他界。私は独り泣き崩れるも祖父母のお陰でこうやって平和に生きている。それは祖父母達の温かな励ましや優しい言葉に、泣いているだけでは駄目だと、気付かされたからかもしれない。泣いていては、祖父母達の迷惑だろうと、これ以上困らせては駄目だと、思ったからかもしれない。

いや、きっとそうだ。

目の前に広がる青々とした空に、私は軽く自重気味にそう思った。可笑しいわけではない。只、心がぽっかりと穴を開けたようで、どうにも感情がなくなっていく。このまま、ロボットにでもアンドロイドにでもなってしまいそうだ。
いや、それが私だったらどれだけ良かっただろうと、正直思った。

そう言えば昔お婆ちゃんが言っていた気がする。心に穴が空いた時は、決まって悲しい時があった時よ。と。
今でこそ少々呆け気味のお婆ちゃんが残した、数多い教訓だ。しかこういうものはもう少し後になって・・・と思っていた。
まさか今になって、確かにその通りだと実感するとは思いもよらなんだ。うっかり。
ねぇ、お婆ちゃん。

側にいないお婆ちゃんに向かって問いかけるように、私はそう言った。気がした。何せ耳に雑音が入り、口が動いているかさえも感覚が麻痺し分からないのだ。
ちゃんと言えたかなど、確かめようがないではないか。
でももし、ちゃんと言えていたなら、誰でもいい。側にいて欲しい。お婆ちゃんでなくてもいいから、今は只、側にいて。そう言いたかった。
しかし、「たかった」。私が言うのは「たかった」と言う「希望」つまり、出来ないとも踏んでいた。いや、出来ない。絶体に。



(こういう、ネガティブな考えは膨らむのになぁ)



我ながら、このマイナス思考さに笑えてくる。
横に目を見やれば、近寄りがたいと言わんばかりの人だかりと、血だまりが見えた。
この血は、おそらく自分のものだ。



―――・・い、じょ・・ぶか・・・。



不意に、脳内に聞いた事の無い声が過ぎった。
この状態で大丈夫なら私は無敵だっての、なんて内心屁理屈を言った。
あぁ、きっと今着てるお気に入りのジャージとジーンズは、血に濡れているに違いない。



現在午後12時過ぎの時間帯、自動車道。一人の少女が大型トラックに轢かれ重体を―――。


そんなニュースが、きっと流れるんだろう。




私が死にかけた日
(未練と言えば、買いに行った漫画が買えなかった事くらい)

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