少女よ翼を抱け
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『っ・・・!』
「おい、待て餓鬼!」
「逃げるなっつってんだろうが!」
『(こんな状況で逃げない方が馬鹿でしょ・・・!)』
今現在、私は逃げている最中だった。
海賊達は私を・・・いや、おそらくこの麦わら帽子のせいだろう。これを見るなり目つきを変え、私を殴ってきた。
この帽子の持ち主とでも因縁があったのかもしれない。だが、子供に因縁のある海賊(?)というのも可笑しな話だ。
―――それに私は、その持ち主とは関係が無い。
『あ、あの!私この帽子拾っただけで!』
「嘘つくんじゃねーよ!このクソアマが!」
―――の、一点張りである。
話をしようにも、話をするほどあの厳つい顔をした男2人は冷静ではいられないらしい。
一体、どんな因縁があると言うのだ・・・。
・・・ともかく、今は逃げるしかない。
普段発揮されない脚力を今全力で発揮する。
翌日の筋肉痛など知るものか。何にしても、命が無ければ明日は無い。
「待てって・・・言ってんだろうが!」
すると、後方を走る男の一人が銃を取り出し、此方へと向ける。
その瞬間の事だった。私の足に、何かが擦れたのは。
『うっ・・・!』
「チッ・・・手間、かけさせやがって」
足を擦れたのは、どうやら銃弾だったらしい。
その証拠に先程は銃声が、男の持つ銃の銃口からは煙が吹いていた。
銃弾の擦れた足は一直線の傷口を作り、血を流している。空気に当たるせいで、非常に痛い。
「おい女、お前の仲間はどこに居る?」
『だ、だからわた・・・』
ぐだぐだ言ってんじゃねえよ!男はそう叫ぶと地面で足をかばう様に蹲っていた私の髪を引っ張った。
髪を引っ張られ、ブチブチと嫌な音が耳に聞こえた。頭皮がとても痛い。
痛みに目を瞑っている中、薄く瞼をあげると男と顔が合う。
良く見てみると、本当に厳つい顔をしている。顔にも、腕にも傷を負っているその男の顔の迫力は語れるものではない。
―――怖い。
恐怖心が私を支配する。
「おいおい、コイツ泣いてるぜ?」
「女の悲鳴はうるせーなぁ・・・。鳴き声は別だがな!」
卑猥な会話と笑い声が、耳に入る。
こんなところで私は死んでしまうのか。この男達に殺されるのか。見事なまでの勘違いをされた末、こんな道を辿るのか。
自分の死体の姿が一瞬垣間見えた。嫌な妄想であってほしいと、願う他ない。
「まあ、いい。また逃げられても面倒だ」
もう一発喰らっとけ。男はそう吐き捨てる様に言うと、私の右足の太腿に銃口を向けた。
次は至近距離、外れる筈が、ない。
『っ・・・』
涙が頬を伝うのが分かる。顔が恐怖で歪んでいるのも分かる。
私は強く、瞼を閉じた。次の激痛に備える様に、せめてその瞬間は見たくないと思いながら。
「君達、やめないか!」
「あぁ、何だテメエ」
「ジジイは引っ込んでろ!」
おじさん、危ない―――!
そう叫ぼうとした瞬間、私の頭に衝撃が走った。