少女よ翼を抱け

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「―――これが持っていく物全て・・・で、いいね?」

『はい。おじさん・・・今まで有難う』



何、構わないさ。おじさんは苦笑を浮かべながらそう言った。



「―――海賊になっても、達者でな」

『あは、あはは・・・』



―――そう、私は海賊となる。
つい先程、「さぁ、いってらっしゃい」「うん、分かったおじさん!私海賊になって頑張るね!」みたいなノリで海賊となる事となった私。
普通、誰も好き好んで海賊なんてならない。いや世の中にはそんな人間もいるんだろうけど、少なくとも私は違う。自ら危ない橋を綿ろうなどと言語道断だ。
しかし、世の常とは私の意に反するものらしい。私は元の世界に変える為、はたまた自らの芸術を求める為に海賊となって旅をする事となったのである。
いやなんでだよ。私は自分自身にツッコミを入れてやりたい。私あれだよ?悪逆非道の限りをつくすあの海賊になるんだよ?可笑しくない?可笑しいよ。



『・・・』

「そう気を落とすな。案外海賊も良いぞ。気楽だし、冒険がある。わしも昔は・・・」

『え?』

「あぁいや何でも。それよりほら、まとまった荷物を持ちなさい」



もう行くのだろう?

おじさんは私にそう問いかけ、私は頷いた。
・・・本当にこの数日間、この不可思議な世界に来てからはおじさんに助けて貰ってばかりだ。



『・・・懸賞金みたいなの、ついちゃったりして』

「それはいい。元気な顔で映ってくれよ」

『ちょ、冗談ですから!』



本当に懸賞金になったら洒落にならない!
しかし、この思いは後に裏切られる事など、今の私には知る由もなかった事だ・・・。

雑談はさておき、私は困り顔で先程の言葉を訂正する。



「おいななこ!おせぇーぞ!」

『うわ!っておそくねーよ!気が短すぎる!』

「いーや遅い!いいか、俺は5分もまってらんねーだ!それを7分も!2分も遅れてんぞ!」

『え、まだ7分だったのかあれから・・・ってか自慢すんな!』



ルフィが突然店の中に入ってきたかと思うと、いきなり大声で「早くしろ!」と騒ぎだした。
それもルフィ曰くそこまで時間は経っていなかったらしい。本当に気が短い奴だ。



『・・・って、この巻き付いている手は何かな』



すると、ふと腰に違和感を感じ、見下ろしてみる。そこにはルフィの右の手腕が巻き付いているではないか。
正直腹部がきつい。ぎゅうぎゅうに絞めつけてくる為、時折吐き気が込み上げてきそうになる。



「お前見た目からして鈍間そうだし、担いで連れてくぞ」

『はい?』

「じゃ、行くぞー!」



するとルフィは問答無用と言う様に伸びた手を一気に縮ませ、私を右肩に担ぐ。
それも態勢としては私はルフィの後方に当たる方に顔を向けている。つまり私の下半身はルフィの前にあると言う事だ。
そしてその間、私は驚いてしまい肩に担いでいた荷物を落っことしてしまった。
あれには着替えや生活用品、その他おじさんがくれた本や美術用品一式などその他諸々に入っている。
つまりは私の命とも言える代物だ。



『ちょ、取らせて!』

「めんどくせー。却下!」

『横暴すぎる!』



ぎゃあぎゃあ騒ぐ間もなく、私はルフィに担がれたまま走りだされてしまった。

・・・いや、飛んだ。



『ちょ、何でジャンプ?!何で飛躍!?』

「屋根上って行った方が早いぞ」

『そんな近道子供でもせんわ!』



しかしルフィの感性はどこかが欠落しているらしい。私のツッコミをあり得ないというような眼で見てくる。ついでに「えー」という不満の声も。
私は街が言っていない筈だ。うん。



「―――ななこ!」

『え?』



突然、ルフィとは別の声がする。

聞き覚えのある声だった。私はその声の方へ首をやると、そこにはおじさんがいた。
大事そうに小脇に抱えているのは、先程大きな鞄の中に詰め込んでおいたスケッチブック。
おじさんはそれを勢いよく投げる。



「忘れ物だ!」

『おわっ!・・・と』



ルフィがジャンプする間に此方まで来て、危うく落としそうなところを何とかキャッチする。
どうやら私の反射神経もまだまだ捨てたものではないらしい。
そんな事に感動を覚えていると、おじさんは声を荒げる様な大声で、こう言った。



「良い絵を描ける事を、待っている!それまで帰り道を見つけてしまったらそれまでだが・・・

わしは、君の絵が好きだ!」



だから待つ!

前までのおじさんならあり得ない程の、荒げた声だった。
いつものおじさんはおだやかで、決して声を荒げたりしない。
落ち着いた凛とした態度で、誰に対しても親切で、気さくなおじさんが私の為に声を荒げて、言ってくれる。

―――私の絵が、好きだと。



『うん・・・うん!絶対!』



今までお世話になりました!

その声を最後に、ルフィは待ったと言わんばかりに速度を上げ、この街から遠ざかって行った。
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