少女よ翼を抱け

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『ウソップー釣りしよー』

「おぉいいぞ!って準備手伝えよ!」

『うえっ・・・分かった』



この船に乗って早三日。彼女―――ななこはこの船の船員として定着していった。





*     *     *





『・・・っと!あ、また小魚・・・』

「またかよ!お前はそう何で小魚ばっかり・・・。見ろ!バケツが小魚で埋まってんじゃねーか!」



と、長鼻の男改めウソップが見せたのは、釣った魚を入れるバケツ。
その中身は見る限り小魚、小魚、小魚と、全て小魚で埋まっていた。先程ウソップの釣った平均的な大きさの魚などもう見えない位には。
それをななこは苦し紛れの言い訳と言わんばかりにどもる。仕方ないじゃないか、と。



「ったくよぉ・・・」

「お、お前等何やってんだ?」



すると、横から割って入ってくるのはこの船の船長。モンキー・D・ルフィ。麦わら帽子が特徴的な青年だ。
ななこは釣り竿を指さしながら、釣りをしている事をアピールする。



「お、俺もするぞ!」

『駄目でしょ!今日はルフィが見張り番なんだから!』

「あれつまんねェ」

『つまんねで終わらすな!』



ナミ直伝のチョップを、ななこはルフィの頭部に直撃させる。
ちなみに、ゴムなのに痛いのは仕様だ。ルフィはその痛さに声をあげ蹲る。しかしそれとは裏腹にななこは溜め息をついていた。
―――全く、この船長は。
この船に乗り、ルフィと言う男が分かってきたななこにとっては、最早当たり前の事なのだけれど。



『ルフィの我儘は尽きる事なし、か。・・まあ、慣れたけど』

「おまえ順応早すぎだろ」

『だって初日から新しい仲間が出来た宴だー!って叫んで、結局苦労したのゲストの私じゃん!』

「そりゃお前、世話焼き過ぎなんだよ。態々ルフィやゾロ達を船内に運び込んでよ・・・。あれ俺も手伝ったんだぞ!」

『だって腕力ないんだもん!』

「いや今殴っといて何言ってやがる!」



この3日で定着した、日常。
それはななこに仲間を与え、絆を与えた。そして冒険を。
ウソップと釣りをし、ナミとロビンと共に雑談を楽しみ、チョッパーを愛で、サンジに迫られたり。
・・・ルフィに、鉄拳制裁を受けさせたり。

どんどん、それが定着していった。

唯一難点があるとすれば・・・



「うるせェ・・・」

『・・・何よ』



じりじりと燃え、飛び交う視線。
そう、唯一の難点と言えば、この厳つい顔をした剣士、ゾロとの仲くらいか。

―――麦わらの一味加入初日、ゾロの印象は最悪なものだった。
何が最悪だったのかと問われれば、まず最初ンも発言である。

“おい鳥頭”

それがゾロの放った最初のななこへの言葉だった。
当初ななこはルフィに剛速球のスピードでこの船に連れられてきた。
スピードが出れば、風が頭髪に当たり髪が乱れる。それはななことなると余計に乱れてしまう。案外繊細な髪なのだ。
そしてそれを直さず早速自己紹介ときた為、戻す時間が確保できなかった。ナミはウソップと言った面々は目を瞑ってくれたが、ゾロは違った。
その見た目そのままの事を、ななこが気にしていた事をドンピシャリと言ったのである。
女性として乙女として。ななこはそれ以来ゾロに対して高圧的な態度を取るようになり、またゾロも口を開ければななこにつっかかるような物言いをするようになった。



「昼間っからうるせーんだよ鳥頭」

『目、悪いんじゃない?私ロングですけど。ストレートですけど。チョッパー!ここに患者がいるよー!』

「な、本当か?!」



ななこの声に駆けつけ、やってきたのはこの船の船医チョッパー。
彼はヒトヒトの実という悪魔の実を食べ、人間の知能を身に付けたトナカイだ。一言でいえば化け物ともあだ名される彼ではあるが、そのぬいぐるみの様な容姿に、ななこは化け物ではなく「妖精」と呼んでいる。
まあ、本人の前では流石に言えないので、内心だが。

チョッパーはななこに病人はどこだ?!と言いながら攻め寄る様に駆け寄る。
ななこはチョッパーに病人、もといゾロを指さす。するとチョッパーは一目散にゾロに駆け寄り、診断し始める。



「―――おいチョッパー!俺はどこも悪くねェぞ!」

「えぇ?!だ、だってななこが・・・」

「その女の嘘だ!」

「嘘?!嘘だったのかななこ?!」



目が飛び出すくらい驚くチョッパー。
しかしそれとは裏腹に、ななこは驚くくらいに冷静だ。「扱いは慣れている」そんな様子で、ななこはチョッパーに語りかけるように言った。



『チョッパー、あいつの悪い所はね・・・』

「ど、どこだ・・・?」

『頭』



瞬間、ウソップとルフィは噴き出す。



「っ・・・テメェ・・・」

『ちょ、睨まないでよ。本当の事じゃん』



ゾロが斬りかかる5秒前。
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