少女よ翼を抱け

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―――ななこが部屋から出た瞬間、そこに広がっていたのは慌てる船員たちの姿に、大きな波だった。

・・・と、大きい猿の顔。



『・・・え』

「丁度良かったわ!ななこはこっちに!」

『う、うん!』



ナミの声に返事をし、階段を上っていくななこ。
そこにはナミとロビンの姿があり、2人に駆け寄る。



『ね、ねえ。あの猿何・・・?!』

「シーモンキーよ。ああやって大波を起こす海の悪戯者ね」



ロビンの冷静な説明が入る。
―――こんな生物、元の世界には居なかった。



(やっぱりここは、私のいた世界とは違う・・・)


 
改めてここが元の世界ではない事を実感するななこに、現実はそう悠長に波は
立てない。
シーモンキーの起こした大波は近づき、今にも船を飲み込みそうな勢いだ。

すると、見張り台に立つウソップからの声がルフィ達に届いた。
「12時の方向に、船を発見」そのウソップの声に釣られ、ルフィがその方向を見る。
ななこも釣られるように船の方を見ると、そこには旗も船もない可笑しな船の姿があった。



「すげェ勢いでいじけてるぞ!まるで生気を感じねぇ!」



ルフィの声だ。
ななこは船のある方角へと目を細める。



『・・・うわ、体育座りしてる』

「本当ね。まるで絶望感に打ちひしがれているようだわ」

『言い方怖いよロビンさん』



ロビンの恐ろしい発想に、ななこは冷や汗をかく。
帆も旗も無い、ましてや乗組員はロビンの言う様に絶望感に打ちひしがれている様なその船。
しかし今はいじけていれるだけの時間など皆無だ。ルフィはその船に後方にある大波、シーモンキー達の事を伝える。

―――しかし、その船の取った行動はあまりにも意外なものだった。



「野郎共!立ち上がれ!敵船だぜ宝を奪うぞ!」

「波だ、待て大波が来てる!避けるのが先だ!」

「あの船に逃げられちまうぞ!」

「大砲だ、用意しろ!」



何ともまとまりのないその船。
明らかに逃げるのが先のはずなのに、彼等の意見は見事に別れ、この船を襲うかこの大波から逃げるかの議論が飛んでいる。

しかし、シーモンキーの悪戯である大波は待ってはくれない。
大波はやがてまとまりのない船に襲いかかる。先程から逃げていたななこ達の船は襲われる事なく脱出に成功したが、あの船はだんだんと波に飲まれていく。
―――「宝を奪え」「波から逃げろ」。船の人間達は叫ぶ。

大波は、船を蝕んだ。



『な・・・!』



船は、亡くなった。





*     *     *





「―――ふー、おさまったか」



波の静まった静寂な海に、一つの案署の声が漏れる。
シーモンキーの起こした大波は、一つの船を巻き込む事によって終結された。
しかしそれは同時に、あの船への疑問を麦藁の一味達は募らせた。逃げ切れたあの大波から、何故逃げなかったのか。
主にウソップ達がそれを話す中、ななこはというと船の甲板で縮こまっていた。



『なんか、疲れた・・・』

「まあ、初めての航海だったんでしょ?仕方ないんじゃない?」



すると、縮こまっていたななこの横に、ナミがやってきた。



「あーあ、結局ジャージを着こんでる。折角可愛い服もあげたのに」

『落ち着くんだよね。ジャージだと』



どうしても、手放せない。そうななこは続けた。
ナミは相槌を打ち、暫くじっとななこを見つめると、不意ににっと笑って空を見上げた。



「―――やっぱり、寂しい?」

『はい?!いや・・・何で?!』

「なんとなく。そうやってボーっとしてると、何だかそういう風に見えて」



じっと空を見つめ、やがてその視線をななこの方向に落とす。
今のナミの言葉は、ななこの本心を知る為の言葉だった。
この船に乗って3日、まるで初めからいた様に誰とでも(一部省く)親しくなっていったななこ。
しかしそれに違和感を感じないほどナミは鈍感ではなかった。もしや何か企んでいるのか、もしくは無理をしているのではないか。
ななこの人柄を見る限り、相当な演技でもなければ彼女は後者に当たる。ナミはそれに勘づき、問いかけたのだろう。



『ただボーっとしてただけだよ。・・・まあ、寂しくないって言ったら、嘘になると思うけど』

「・・・そ、ならいいわ。でも、辛い時は言いなさいよ?アンタみたいな一般人の代表みたいな子がこの船に乗るなんて、正直可笑しいし」

『私もソレ凄く同意してマス』

「ちょ、別に非難してる訳じゃないのよ?!私が言いたいのは―――」



ななこの片言な言い方に何かを感じ取ったのか、ナミは慌てて訂正を加えようとする。
しかし時すでに遅しと言うべきか。ナミの言葉を遮る様に、別の声がゴーイングメリー号に響き渡った。



「おしななこ!島に着いたら冒険するぞ!」



一体、何を言っているのか。
それを理解するのに、ななことナミは数秒時間がかかった。
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