Short (1)

□不器用な恋の始まり
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学校帰りの放課後、火神はいつもみたいにマジバに寄り、チーズバーガーを山盛り注文していた。
その時、ぶはっと吹き出すような笑い声が聞こえ、火神は辺りを見回した。

「チーズバーガー頼みすぎ…!どんだけ大食いなの?お前っ…」

「な…!」

意外な人物を見て思わず目を見開かした。
そこにはライバル校である、秀徳高校の高尾がいた。火神の注文したチーズバーガーの山盛りを見て、どうやら腹を抱えて爆笑しているようだった。

「高尾…!?何でお前がここにいるんだ!?」

「よっ!火神ー!てか、オレだってマジバぐらい行くっつの!んなに驚く事ねぇだろ?」

高尾は軽く手を上げて火神に挨拶した。そして唇を尖らせながら拗ねたような口調で言うので火神は軽く謝った。

「ああ…、悪い。こんな所でお前と鉢合わせるなんて思ってなかったからよ」

すると高尾は納得したように微笑んだ。

「まぁ、そうだよな。オレだってマジバで火神に会うとは思ってなかったし」

「だよな。てか…今日は緑間と一緒じゃねぇの?」

いつも高尾と共に行動している緑間の姿が見えないのでそう問い掛けると、高尾は「まぁなー」と言いながら苦笑した。

「ウチの真ちゃん、人混みの多い所嫌いだからさ」

「あー、なるほどな」

確かに緑間なら人混みの多い所は好まない方だろう。
火神は納得するように相槌を打つと、高尾も質問返しをした。

「そっちこそ。今日は黒子と一緒じゃねぇの?」

「あのな、いつも一緒いる訳じゃねぇんだよ」

そもそも黒子が自分の目の前に勝手に現れるだけで、いつも好き好んで一緒にマジバに寄っている訳ではない。

「ふーん、そうなんだ。じゃあさ、一緒に食わね?」

「は…?」

突然の高尾の提案に火神は目を丸くした。

「なんでオレがお前と…?」

「別にいいじゃん。オレ一度火神と話してみたいなって思ってたしさ!それにたまにはこういう交流も悪くねぇだろ?」

確かに火神と高尾は一度もちゃんと話をした事がない。大抵は緑間と黒子を通じて知り合いになった程度なだけで、お互いの事は全く何も知らない。

いや、別に知る必要もないのだが、火神は別に高尾の事を嫌だとは思っていないのであっさりと了承する。

「ま、別に良いけどよ。じゃあ席取っとくから注文して来いよ」

「はいよー、じゃあよろしくな」

高尾は軽く手を上げて了解する。そして注文を取り始める。

火神はどうしてこうなったのか、と若干思いながら一番奥の席の方まで移動をした。


****


「お待たせー」

高尾はトレイに乗せたハンバーガーセットをテーブルに置いて席に着いた。
火神はチーズバーガーを大きくかぶり付きながら「おう」と答えた。そして高尾の注文したハンバーガーセットを見つめながら意外そうな眼差しを彼に向けた。

「お前、結構少食なんだな。そんなんで足りんのか?」

「オレは普通だっての!火神が逆に頼みすぎ。お前こそよくそんなに食えるな?」

「だってバスケしてたら腹減るだろうが」

「ぎゃはっ!普通はそんなに減らねぇよ!てか、お前の胃袋どうなってんの!」

高尾は腹を抱えて再び爆笑するので、火神はそっぽ向きながら

「うるせぇよ!」

とだけ答えた。

そしてハムスターみたいに頬張り込んでチーズバーガーをぱく付いた。

「なぁ。火神ってさ…休みの日は何してんの?」

「あ?外でバスケやってるけど?」

「うわっ、正真正銘のバスケ馬鹿だ!」

今の解答に何か面白かったのか、高尾はケラケラと笑いながらテーブルをバンバン叩いていた。
火神は何がそんなに面白いのか理解出来ず、眉をひそめながら高尾に視線を向ける。

「何がそんなに面白いんだよ?」

「ん?いやー、火神みたいな純粋なバスケ馬鹿を見るのは久々だなって思ったら何だか可笑しくなっちゃって!」

「……」

普段からバスケの事以外頭にないので部活があろうがなかろうが時間さえあれば外でバスケをするのが火神にとっては当たり前だと思っていた。

だからそれを"純粋なバスケ馬鹿だ"と評価する高尾に対して何か違和感を感じて、火神は口を開けた。

「お前だってそうじゃねぇの?」

「え?いや、オレは火神と違って休みの日は音楽聴いたりとか、趣味のカード集めをしたりしてるぜ?」

「そうじゃなくて」

「へ?」

火神が何を言おうとしているのか、いまいち分からず高尾は瞬きをしながらポテトを口に含んだ。

「お前だってバスケが好きだから、秀徳のレギュラーになれたんだろ?」

「……」

「バスケ好きじゃなきゃ、あんなキツイ練習には耐えられねぇと思うし、そんなに上手くもならねぇだろ」

高尾がどれ程上手いかなんて、一度試合をすれば嫌でも分かる。
純粋にバスケが好きだから高尾はキツイ練習だって耐えてきたんだろうって思うし、何より東の王者と呼ばれている強豪校に一年でレギュラー入りをするなんて、余程の努力がないと出来ないだろうと火神は思った。

「火神…」

高尾は呆けた表情で火神を見つめて、ぷっ…、と小さく吹き出した。

「な、何だよ…!?オレまた何か可笑しな事を言ったか…!?」

「いやっ…、そうじゃねぇけど…!ぷっ、ははは!」

敵である自分の事をそんな風に言うなんて、火神はどれだけ純粋な性格をしているんだろうと高尾は笑いながら思った。


本当に火神と緑間はどこまでも似ているよな…。


「ありがとな火神」

「あ?」

「そういう風に言って貰えるのはすげぇ嬉しいよ。だから、ありがとな」

「……ッ」

高尾の普段とは違う嬉しそうな笑顔を見て、火神は思わず息を飲んだ。

そして突然、心臓が不規則なリズムで激しく高鳴り出すので、火神は動揺しながら「お、おう…!」とだけ答えた。
そして高尾から視線を逸らすようにと俯きながらチーズバーガーを食べる。


ちょっと待て…、オレの心臓…何でいきなり激しく脈打ってるワケ…!?それに何だか顔が熱くなっているような…!?


何故か高尾を見ると体温が上昇してしまう。それに心臓も激しく高鳴ってしまう。
火神は何でだと疑問に思いながら頭を乱雑に掻き乱した。


――それから一時間くらいはバスケやそれ以外の話題を上げながら火神と高尾は話し込んではいたが、正直バスケの話題以外、何を話したかなんて火神は覚えてはいなかった。


ただ、高尾の話題に合わせるように会話するだけで精一杯だった。
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