(2)

□甘い時間 *
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ああ、温かい…。


今自分は誰かの腕の中にいるんだと、ぼんやりとした頭で判断する。

自分よりも大きくて、温かくて、決して女のように柔らかくないゴツゴツとした男の感触。そして慣れない人の香り…。だけど決して不快なものではない。


「……虹村…サン」


瞼をゆっくり上げて、今まさに自分を腕枕して優しく抱き締めてくれている人物の名を呼ぶと、虹村は普段ではあまり見せない柔らかい笑みを浮かべて灰崎の髪を優しく鋤いた。

「お。起きちまったか?灰崎」

「おう…、起きちまったよ…」

「そうか…」

もう少し眠っていて良かったんだぞ?と言われるが、灰崎は子供のように首を左右に振り、甘えるように彼にすり寄った。

「…灰崎?どうした…?」

「…分かんねぇ…、なんか…急に甘えたくなった…」

寝起きだから頭がぼうっとしているのか、何故か急に虹村に甘えたくなったのだ。

「……」

だけどその事に対して虹村は反応してくれなかった。

こんな素直な自分は気色悪かっただろうか…と不安に思い、おずおずと見上げると。

「……ッ!」

目が合った途端に彼の顔はかぁぁっと赤く染まる。予想外の反応に呆然とすると、力強い抱擁が灰崎を襲う。

「に、虹村サン…?」

「お前はっ…、急にそんな可愛いコトを言うなよな…!」

調子狂うだろーが、と耳元で甘く響き、擽ったさを感じた。

「わ、悪かったな…。じゃあもう言わねぇーし、甘えねぇーよ」

言うんじゃなかったと後悔を覚え、プイッと拗ねるように抱擁から逃れようと身を捩るが、虹村の力が強くて身動ぎ一つ出来ない。

「いや、もっと言ってくれよ!甘えるお前なんてすげぇレアだし、可愛いじゃん!」

「やだよ、恥ずかしい。それにオレは別に可愛くねぇし」

見た目が完全にゴツい自分の何処が可愛いのかと思いながら、はーなーせーっ、とジタバタと動くと、虹村の唇が急に近付いてくる。

「もっと甘えろって、祥吾」

「…!」

「甘えてくれねぇと、その唇を塞ぐからな」

「はっ…、ふっ…ぅ…!んっ…」

そう告げられると同時に虹村の唇が自分の唇を深く塞いだ。
最初はちゅっ、ちゅっと小刻みの良いリップ音が何度も響いた。目をきゅっと閉じて受け止めていると、次第に口腔にぬるりとした舌が入り込んでくる。

「んぅっ…、ふっ…ぁ…!」

熱い。熱い…。
歯列を舐めたと思えば、奥に引っ込めていた舌を優しく絡ませて、虹村は徐々に灰崎の唇を深く貪っていく。

「は…、んっ…、んん…!ふ…ぁっ…」

「祥吾…、可愛い…」

「んっ…、ぅ…!んっ…、んん…!」

虹村のこんなにも優しくて甘ったるい表情なんて…、おそらく自分しか知らないのだろう。その事に優越感を覚え、灰崎は与えられるキスに夢中になって大きな背中にそっと手を回した。


「はっ…、ぁ…!」


深く貪られていた唇はゆっくりと離れていった。そして互いの額を重ね合わせて虹村は再度問い掛ける。

「どうだ?もう一度甘える気になったか…?」

「……ッ」

甘ったるい吐息が唇にダイレクトに掛かり、思わず咽が上下に鳴る。

その優しい灰色の瞳を見ると駄目だ。反発する気が失せて、結局は彼の言う通りに素直に甘えてしまうのだ。
自分と同じ瞳の色なのに、虹村の瞳は全く濁っていない。自分とは違いずっと澄んでいて…。綺麗だとさえ思える。

「虹村サンって…、本当に卑怯だよな…」

「あ?何が?」

「だって普段は容赦なく殴るくせに…、二人きりの時だけ…、すげぇ優しくなるじゃん…」

オレの方が調子が狂っちまうよ…。と言うと、ちゅっ、と触れるだけのキスを落とされた。

「バーカ、当たり前だろ」

「え…?」

「お前を叱るのも、甘やかすのも。オレだけの特権なんだよ」

「…!」

「だから、お前以外の奴に、ンな表情は見せねーよ」

お前限定だ。と囁かれる声が、どうしようもなく甘ったるくて…。

「…っ」

灰崎は耳まで真っ赤に染めて、恥ずかしそうに顔を俯かせた。そんな自分の姿を見て、虹村はクスクスと笑った。

「何だよ…、照れているのか?」

「だって…、アンタが"お前限定だ"なんて言うから…!」

他人からそんな特別扱いを受けた事がない。だからどういう反応をすれば良いのか分からなくなったのだ。

「お前はっ…、本当に可愛い奴だよな」

虹村は愛しそうに灰崎の頬に触れて、また唇を重ねてきた。そして寝起きで跳ねている髪を優しく撫で上げて、甘い吐息が掛かるように囁く。

「ほら…、祥吾。オレにして欲しい事を、何でも良いから言ってみろよ…」

「……」

本当に、何でも言って良いのだろうか。灰崎は珍しく控えめに彼を見上げた。

「ん?どうした?」

「本当に良いのかよ…?その…、何でも言って…」

普段好き勝手に行動しているが、やはりこうやって好きな相手に甘える事は不慣れだ。おずおずと問い掛けると虹村は可笑しそうに笑い出し、髪に優しく口付ける。

「遠慮する必要なんかねぇよ。良いから言えよ」

「…、じゃ、じゃあさ…」

トクントクンと心臓が高鳴る。それが何だか擽ったく感じて、肩に顔を埋める。

「もっと…、強く抱き締めてよ…」

「こうか…?」

抱き締められる力が少し強まったが、まだ物足りない。

「虹村サン…、もっと…」

「祥吾…」

灰崎からも虹村を抱き返して要求する。当然互いの距離は縮まり、二人は自然と唇を引き寄せ合ってキスを交わす。

「ん…っ、んん…」

柔らかい感触が口腔を支配する。与えられるキスが甘くて、気持ちよくて…。その感触をもっと味わいたくて自分からもと彼の舌を絡ませる。

「ふ…ぁっ…、んんっ…!んっ…、ぅ…!」

「…ッ、ん…、は…」

「んぅっ…!ん、んん…」

厭らしい水音が静かな部屋に響き渡る。頭が段々と呆然としていた時、虹村の手が衣服の中に侵入していく。

「ふっぁ…!はっ…!」

胸の尖りを親指でなぞられた瞬間、ビリビリと痺れが身体中に走って、思わず唇を離してしまった。

「はぁっ…、やっ…、虹村…サン…!」

「悪い…、甘えるお前を見てたら…、すげぇ抱きたくなった…」

「あっ、…ぁぁ…!」

クリクリと尖りを弄られる。灰崎は唇から漏れてくる甘い喘ぎ声が恥ずかしくて、手のひらで唇を押さえた。

「んん…っ、ふ…ぅ…」

「祥吾…、声を聞かせろよ…」

「やっ、やだ…!」

「やだじゃない。聞かせて」

衣服を上に上げられ、傷だらけの肌を晒される。虹村の舌がそっと胸の尖りに含んで、転がすように弄くり始める。

「んんっ…!んっ…!ひ…ぁっ…」

ジンジンと甘い痺れが襲ってくる。時折、歯を立てて赤ん坊のように吸い上げてくるから気持ち良くて仕方がない。

「虹村…さっ…、ぁぁっ…!」

「段々と硬くなってきたな…そんなに気持ち良い?これ」

「あっ…、はぅっ…、んん…!ん…ゃっ…!」

与えられる刺激に身体をビクビクと震える。何度もコクコクと頷くと、虹村は安心したように、そっかと言って、もう片方の指の腹で尖りを弄る。

「あっ…、やっ…ぅ…!あ、んん…!」

「お前…、相変わらず感度が良いよな。もう此処も勃ち上がっているぞ」

「あっ……!ふっ…、くぅッ…!」

ズボンの上からでも分かりやすく勃ち上がっている自身を触れられて、灰崎は仰け反り返る。

「虹…村…サンッ…、ままっ、待てよっ…」

「待たねぇ…。もっと気持ち良くしてやるから力抜いてろ…」

「あっ…!」

ジーッとズボンのファスナーは下ろされる。そして虹村の手が器用に下着ごとズボンを脱がし、恥部を露にされた。

「ッ…!」

灰崎の顔はかぁぁっと赤く染まり、恥ずかしそうに身を捩らせる。

「はッ…、もうでかくなってやんの…」

そう言うと同時に虹村の唇は灰崎の自身を口いっぱいに含み始めた。
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