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□ファインダー
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「あ」
「どないした」
ファサ、と目の前のてきとーに伸ばされた黒髪が風で揺れる。
一緒にゴミでも飛んできたのか、侑士は片目を瞑り利き手を目元に翳した。
「目、何か入ったんか?」
「あ〜…」
肯定とも否定とも取れない何時もの曖昧な生返事を返し、翳していた長い指先を眼鏡の間に滑り込ませ目尻をしきりに擦る。
「やめやめ」
「なんやゴロゴロすんねん…」
「あかんあかんて。どれ見せてみー」
眼球傷付けたらどないすんねや。そう問いかけると目を擦りながら侑士は縁の無い眼鏡をゆっくりと外した。
「せやかて、涙出るねん」
あ〜、アホか。ちゃっちぃゴミやったら涙が洗い流してくれるんやからほっとけばええねん。わかった、わかったから擦るな。
「あかん、て。ほれ。指」
「あ」
侑士の手首を掴んで擦るのを阻止する。
「あかんて、涙出るて」
「どうせ片目だけやろ。誰も泣いてるように見えへんから擦るな」
「この程度で泣くかい…」
欠伸したって涙出るわ。
ならええやろ…
減らず口ばかり叩く侑士が涙を湛えた片目を頻りにパチパチさせるのを確認して捕まえていた手首を解放する。
擦りすぎて赤くなった目尻から一筋涙が流れて落ちた。
「…」
頬を伝った跡を追いかけるように、直ぐに平べったい手の甲がその痕跡を消去していく。
なんだか本当に泣いてるように見えて少しばかり動揺してみたりして。
「…痛ないか?」
「…ん」
侑士は軽く下を向き眼鏡をかけなおす。
「出てったみたいや」
顔を上げ、安堵したように緩やかに形のいい口角が上がる。
「もうええで…待たせてもうたなぁ」
「…」
「謙ちゃん?」
「…」
「死んだか?」
顔色一つ変えず侑士は首を傾げた。
「たわけ」
「なんやねん…」
ふぅ、とため息を吐く侑士の前髪がまた風で揺れた。
「…なんや…」
「なんやねん」
「自分の顔な、前髪長すぎるのが悪い思んねん」
俺。ふむ。と腕を組んで鼻からため息放出。
「なんやねんなんやねん。なんやその態度。」
俺の態度が気に入らない侑士がポケットに手を突っ込む。
「…いや、あんな、侑士」
「おう」
「…そっちの目、偶然前髪でガードされてたから大丈夫なんやと俺は踏んだねん。ここまではわかるな?」
「一体なんやの…」
ゴミの入って出て行った(らしい)方の眼だけが前髪と眼鏡の間から控え目に覗いていた。
目尻がまだ赤い。
俺は飲みかけだった冷コーを一口啜り、ポケットからケータイを取り出し、ピッピッピ、とカメラを起動する。何百万画素だとかいう綺麗な画面を鏡代わりに侑士を映して見せる。
液晶の中の侑士がだからなんやねん、と言うように眼を細めた。
「その前髪のせいで本気で泣いてるようにしか見えへんわ」
ギョッとした侑士の泣き顔モドキを激写した。