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あかん。

目ェ冴えてもうた。

寝られへん…


一人グダグダとベッドの上で寝返りを打つ。

眼鏡をしていない顔に、首に長い髪が鬱陶しい。
指を纏わらせてサラサラと音が流れる黒い髪を掻き上げた。

真っ暗な部屋にぼんやりと白い天井が漂う。

嗚呼、今は一体何時だろうか。

虫が鳴く声が聞こえる。

残暑。

まだ熱の抜けない夏の最後の一つ足掻き。

汗ばむシーツの上でもて余した二本の足が行き場を求めて曲げられたり、絡められたりして衣擦れを響かせていた。


(…明日…ってきっともう今日やんな…)

枕元に目覚まし代わりに置かれていたケータイに手を伸ばす。

瞬間、光から遠ざかっていた瞳孔が怯んだ。

眩しい。

目が慣れるのを瞼を閉じて少し待つ。
白い、光。

2:18

待受画面の隅にある数字を確認してため息が漏れる。

(朝練、あるやん…)

また、シーツの上を白い足が二本、踊った。

何時もは比較的すぐにやって来る睡魔は未だ足音すら聞こえない。
耳に届くのは虫の音と、たまに走り抜けていく車の音だけ。

(…)

何で寝られへんねん…!

待受画面から光が消える。


真っ暗だ。


暗い。

夜の色。

夜と同じ色をした長い髪に、また、指を滑らせた。
何処までが己が身体で何処からが夜なのかまるで解らない。

はらりと指を抜く。

(…)

夜が覆い被さっていた。

夜に意識があるのなら、今、夜なのはきっと己だ。

「…ぁー…」


…メール。
しようか。

寝とるやろな…

起こしたら、悪いやんなぁ…


夜に紛れた、夜にまみれた。
そんな、掠れた声。

脳裏に浮上したのは大きな背中。

色の薄い残像のようなそれは色の無い夜の帳の最下層ではやけに優しい。

(…)


(早よ寝な…)


億劫な腕を持ち上げて瞼の上に蓋をした。


小さく、深い呼吸をひとつ。





……


…アカン…


ごろん、と。
心臓を下に何度目かの寝返りを打った。

Ririri…

「…!」

光る。

着信を告げる音。


2:49

起こしてしまったらすみません


受け取ったメールには、そんなタイトルが添えられていた。



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