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□凹凹
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「あぁ、おったおった…探したでジロー。もぅ、ほんま頼むからミーティングだけは来てぇな…跡部の奴、青筋浮いとったわ」
未だ夢の中の住人に向かってゆっくりと話し掛ける。
「自分、一体1日何時間寝とるん…」
不思議で堪らない。
忍足は金色の後頭部のすぐ横に静かに腰を下ろした。
「じ〜ろ〜…」
濃い緑色をした木々の隙間から太陽光が斑に降り注ぎ、風が草と土のにおいを混ぜていく。
ふとすぐ横を見下ろせば金色の毛玉。
ふわふわとしたそれにぽふぽふと手を弾ませてなでなでしてみた。
「ん゙〜…侑…C〜…」
「…ジロー。起きてぇな…跡部にどやされるわ…」
なでなで。
なでなでなでなで…
「…じろぉー…」
「…んが」
「…」
…んが?
覗き込んでみれば、草の先っぽが慈郎の鼻の穴に入り込んでいた。
(それでも起きんのかい…)
大した根性だといたく感心してしまう。
「…ジロー。ええかげんに起きて欲しいんやけど…な」
捏ねていた金の毛玉から手を離し、今度は人差し指でつんつんとつついて揺すってみる。
「ん〜…!ふ、ご…」
慈郎の鼻の穴に深々と入り込む雑草2本。
「じーろー」
クスクスと笑いながら。
「ぶぇっ!…っしょい!」
想定内のリアクションに笑いを噛み殺すのに精一杯。
下を向き、肩を揺らして笑っていると。
「侑〜C〜…」
ごろんと向きを変え、笑いを堪えるのに必死な忍足をじったりと睨む。
「ッ、ぷ、くく…おはよ…さん、って、ぁかん…!あかんてジロー…!鼻…!」
何とかそれだけ絞り出すと、忍足は堪え切れずにパタリと横になり腹を抱えて声無く笑い出してしまう。
「…鼻?」
指摘された鼻にそっと指を持っていくと、鼻の穴から草が生えていた。
「侑Cー!!!」
大急ぎで鼻穴をはたいて雑草退治し、
ふがー!!!
と両腕を振り上げて冬眠明けの熊よろしく、未だ肩を揺らして笑っている忍足の背後から襲いかかる。
「堪忍!堪忍やでジロー!」
「ダメに決まってるだろー!再教育ー!!!」
「悪かったて!謝る!謝るてぇ!」
忍足の薄い両脇腹に指を滑り込ませわしわしとくすぐる。
「ぁっ…かんてー!」
「ゆるさーん!!!」
ぐったり。
笑い過ぎて死んでいる忍足を枕に、慈郎はいたくご満悦していた。
「侑C〜。今度やったらフルボッコにするから覚えといて〜?」
「…は、ハイ…」
とても晴れやかな気分で流れていく雲を数える。
「んー…でもフルボッコにしたいからやってもいいかな〜?」
「絶ッ!…対っやらんッ…!」
「え〜?」
それはそれでつまらない。
それならば。
「う〜ん…」
「…どないしたん?ジ…」
もう少し時間稼ぎしてみよう。
そうすればまた誰かが俺を捜しに来る筈だ。
きっとその時の、侑士の焦った顔と言ったら…
想像しただけで
満面の笑みで、忍足の唇を頬張った。