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□謙也さんの従兄弟
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別に。
今時料理の出来る男ってのは珍しくない。
髪が長い男だっていくらでもいる。
だから何だ。
「侑士さん、言いましたっけ?アンタホンマに謙也さんの従兄弟ですのん?」
あのアホのスピード狂の先輩とは月とスッポン。
いやいやいや、ちゃうな、あっちはどっちかってーと野猿。こっちは銀狐か。なんや軟らかそうなのに四角いイメージですわ。
都会の光や真夏の似合ううちの先輩とは180°違って、隔離された空間や空気の透き通った寒い夜なんかが回りに見えそうなこの人が、正直謙也さんの従兄弟だなんて全く信じられへんかった。
「なんや光!その『俺は騙されません』てツラは!」
「そないなこと言われましてもちっとも似てませんやん」
信じろてー方がムリですわ。
俺と謙也さんがやり合っているのを口も挟まずに見届けているようにしか見えへんのですけど。この人。
外見のせいもあるんやろうけれど、そのせいか余計にあぁ、頭ええんやろな、と思ってしまう。
まぁ、この煩い先輩の話半分に聞いても成る程。頭脳明晰であることは裏切らないようで。
俺と謙也さんのやり取りを半歩後ろでちゃんと聞いてくれてるのだけは見てわかった。
別につまらなそうにしているでもなく、口を挟んで来るでもなく。
時折吹いてくる風に、この俺より背の高い人の長い黒髪が、甘い匂いと共にふわふわと揺れる。
あぁ、ええ匂い…
「…まぁ謙也さんの話はどうでもいいんで、取り敢えずこの侑士さんって人、ちゃんと紹介したって下さい」
「俺ちゃんとさっきしたやろが!」
「あー。侑士さん…でしたよね?」
オイ!だの、聞け!俺の話!だのワンワンよく吠える大型犬はこの際ほっといて、俺はかなりの割合で興味の対象となった侑士さんをしげしげと眺める。