00

□先生のいない保健室
1ページ/3ページ

不思議と痛くはない。


白石は泣いていた。


俺に包帯を巻きながら。



堪忍な。



そう何度も繰り返しながら。



侑士に怪我をさせた。

折れて飛んでいったラケットの半分が侑士の右瞼を直撃してしまった。

幸い眼球に傷は無く、壊れたのは眼鏡だけ。出血も少なく縫う必要は無かった。

ラケットが当たって侑士が崩れていく様を目の当たりにした時は生きた心地がしなかった。
まるで静止画のようにその瞬間を憶えている。
死にたくなった。
侑士の右目が見えなくなったらどうしよう。
打ち所が悪くて後遺症が出たらどうしよう。
そればかりを考えていた気がする。

消毒して、ガーゼを当てて包帯を巻く。
たったこれだけの事なのに肘が笑って上手く出来ない。
侑士と目が合うのが怖い。

侑士の眼鏡は偉大だ。

レンズ一枚。たったレンズ一枚あるかないか。それだけでこんなにも怖い。
心臓がイカれた目覚まし時計みたいに煩く、全身の血管を揺らしている。

眼鏡の無い侑士が直視出来ない。

怪我をさせてしまった事。

眼鏡を壊してしまった事。


今、二人きりだという事。

何か話さなければ。

侑士に喋らせるわけにはいかない。

なんで?

怪我を、させたから?

包帯が上手く巻けないから?

眼鏡が無いから。

こんなキレイな肌に。

痛くはないだろうか。

本当に?

なんで。

どうして俺は。

侑士。

ごめん。

ごめんな。




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ