00

□先生のいない保健室
2ページ/3ページ

ぐるぐると頭の中を回り続ける纏まらない思考が体からはみ出ているのだろう。

白石の手が酷く覚束無い。

何ともないといえば嘘になる。
それなりに熱をもっている右顔面から察するにやはり少々腫れているのだと思う。

参った。

この汚い顔を公衆に曝すのか。

ただでさえ汚い顔が腫れているのだから、さぞかし今は目も当てられない有り様なのだろう。

白石には悪い事をした。
保健室まで付き合ってもらった挙げ句治療まで手伝ってもらって。



このまま、一生二人きりだったらどうしよう。
この保健室が外界から隔離されて時間が流れないような。
そんな錯覚に押し潰されそうになりながら、やっと、侑士に包帯を巻き終えた。

部屋まで歩けるだろうか。
ちゃんと目は見えているだろうか。

侑士に包帯はよく似合う。

きっとそれは包帯が何かを隠す為に使うものだから。

何かを、隠す。



顔が、熱い。

熱、出るだろうか。

早く帰った方がいいかもしれない。

これ以上白石に手間を取らせるわけにはいかない。

こんな失態、誰にも見せられない。



「ッ!…ゅ、侑士!」

ありがとう。

そう言って立ち上がりかけた侑士の肩を思わず掴んで止めた。

あぁ、良かった。

包帯のせいで左目しかない侑士に心が和む。

この涼やかな両目に晒される勇気は今の俺にはまだない。

きっと、何も出来なくなって哀願するに決まっている。

俺を愛して下さい、と。




次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ