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□先生のいない保健室
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「侑士…送っていく。…いや、送らせてくれ。えぇやろ、な?」
侑士の肩を掴む手が震える。
余裕が無い。
試合なんかの、比じゃあない。
「…ありがとう。けど、ええよ、気持ちだけ貰とくわ。遅くさせてもて、堪忍な」
多少引き吊るのだろう、ぎこちなく、それでも侑士はふわりと笑う。
また、『汚い顔』だとか考えているんだろうか。
こんなに。
こんなに。
透き通っているのに。
白石はもう泣いてなかった。
気が付いてすらなかったのかもしれない。
この怯えた顔。
…そんなに腫れてるんかぃな。俺の顔。
気持ち悪くないやろか…
「嫌や、言うても付いてくで。諦めて送らせてくれ…頼むから」
「白石…」
肩に乗せられていた筈の白石の大きな手が一瞬で背中に回る。
抱き付かれているような、抱き締められているような。
ただ包まれているだけのような抱擁に少し瞼が重くなる。
あかん…、眠い。
「し、…石、俺汗くさいから離れ…」
「俺のが万倍クサイわ。なんせ冷や汗までかいてんねんで。…なぁ、侑士。あんまり俺の事拒絶せんでくれ。俺はお前が思とる以上に傷付きやすいやすいねん」
傷付きやすいやて。
我ながら嘘くさいわ。
ごめんな。
お前今熱あるやろ。
弱ってるとこ不意討ちみたいにして触ってもて、最低な男やな、俺。
「…拒絶…しとるように見えるんか…」
まぁ、強ち間違ってはない。
「侑士。誰が何て言おうが今回のは俺に非がある。いくらお前がいらん言うても俺はお前を送っていく。…お前、少し熱、あるな。あんまり言う事訊かへんと、抱えて帰るからな」
侑士の髪に頬を擦り寄せる。
マジで抱えて帰ったらな、なんて。真剣に考えて内心少し笑った。
さっきからこのドアの向こうに何人かの気配がする。
…謙也に、跡部、鳳…かな?
廊下であいつらが雁首合わせてイライラしながら黙って立ってるのかと思うと可笑しくて可笑しくて、…意地が出た。
「白石…?」
「あ、ああ。悪い。離れな帰られへんな」
ほんとは離れたくない。
このままずっと、保健室で二人きりこうしていたっていい。
侑士が。
侑士が俺を許してくれるなら。
俺を包んでいた体温がゆっくりと離れていく。
「ぁ」
「大丈夫、何処にも行かへん」
白石がやっと、笑った。