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□ヘンルーダ
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それはそれは、昔の事です。

当時の私─
宮原園子(ミヤハラソノコ)は、中学生でありながらも、米国の軍人さんに、恋をしておりました。
そのお方の名前は
スティーブン・アーリー。
私達は村の人達に見つからないように、山奥でひっそりと会っていたのです。
彼は本当に優しいお方で、日本人である私に、優しくしてくれました。
カタコトになりながらも、必死に日本語を話す姿や、笑顔がとても可愛いらしくて、とても敵だとは思えないお方。

ある日、彼が私に言いました。

「ドウシテ、戦争ヲシナケレバナラナイノダロウカ。『ジャップ』…イヤ、日本人ハ、コンナニモ優シイノニ」

私はそのとき初めて、悲しい顔をしたスティーブンさんを見ました。
私は戸惑いを隠しつつ、スティーブンさんの左手に、そっと両手を置きました。

「大丈夫、戦争は必ず終わります!アメリカが勝っても、日本が勝っても、未来は終戦に繋がるのですから…。だからそれまで、互いに生き続けましょう!」

スティーブンさんに、満面の笑みで言いう私。
スティーブンさんは驚いた表情をし、ゆっくりと口を緩め、徐々に笑みを取り戻していました。

そのときです。
草むらから、たくさんの男の声が聞こえてきました。

「見ツカルトイケナイ…。園子、マタ明日ネ」

「スティーブンさん、お気をつけて」

そう言って二人は別れました。
私はスティーブンさんの姿が見えなくなったのを確認して、村に戻ろうとしました。
けれどもその瞬間、スティーブンさんの帰り道から、ドーンッと大きな銃声が聞こえたのです。
私は嫌な予感を察知しながら、スティーブンさんの帰り道を走って行きました。
あの男達の声がスティーブンさんの帰り道から聞こえるのが、私をますます焦らせる。
走っている内に、数人の人影が見えました。
それと同時に、恐怖が私を包み込み、私の鼓動を早くさせます。

ついて見ると、そこには赤い液体に身を投げ出したかのようなスティーブンさんが、目を見開きながら静かに倒れていました。

「アメリカ野郎、死んだんか?」

「念のため、もう一発撃っとけ」

スティーブンさんの周りを囲んでいた4人の男達は、持っていた銃の銃口をスティーブンさんの頭に当てました。
そして、引き金をひいたのです。
またもや鳴り響く銃声に、私は耳を塞ぎながら、スティーブンさんの痛々しい姿をずっと見ていました。
地面に滴るスティーブンさんの赤い血が、鏡のように私を写し出す。

「あ…あぁ…!あああああああああああああああああぁぁぁぁぁあ!!!!」

悲鳴とは思えない狂い声を出す私に、周りの男達は肩をビクリッとさせました。
そしてその男達の中に、私の父が居たのです。

父は険しい顔をしながらも、

「園子、アメリカ野郎を殺せたぞ。軍人でないてめぇ達でも、アメリカ野郎を殺せたんだ…!どうだアメリカ野郎!日本は強いんだ!大日本国万歳!!!」

と言いながら、脱け殻になったスティーブンさんを何回も蹴っていました。

「うっ…お゛ぇ!」

私はあまりの酷さにもどしながらも、スティーブンさんの死体を見つめ続けました。

愛する人を殺したのは、私の父親。
私と血が繋がっている人。
愛する人を殺したのは、私。─

突然浮かんできた言葉に、私は思わず泣いてしまいました。
父はそれを「アメリカ野郎が怖いから泣いている」と思い込み、スティーブンさんを蹴るように仕向けたりしました。
当然出来ずに、私はただ無惨な姿になっていくスティーブンさんを見つめるだけでした。

それからと言うもの、私はスティーブンさんの事を忘れるのに必死で、いつの間にか米国を悪く言うようになっていました。
終戦した今では、私は彼を守れなかった事と、スティーブンさんの母国である、米国を侮辱した事を後悔しています。
これからもこの後悔を背負い、私はこのアメリカの地で生き続けます。

「おい園子、何書いているんだい?」

「ちょっとした物語よ」

「ほぉ〜。あ、そう言えばさ、ヘンルーダの花言葉知ってて育ててるって言ってたよね?調べて見たんだけど…」

「あら、綺麗な植物に花言葉なんて必要かしら。私の知っているディーンは、そんな事言わないはずよ」

「そうだね…、僕が僕であるように、ヘンルーダもヘンルーダだね!!」


─戦時中

「園子、『ヘンルーダ』ノ花言葉ッテシッテマス?」

「知ってるわ。侮辱ですよね?私花言葉で好きなお花決めてるんです」

「園子、ソレハ今ノアメリカト日本ト一緒デス。花言葉ダケデ決メテハイケナイ。ソレニ、ヘンルーダハ綺麗デス」

そうですね、スティーブンさん。

 
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