青学×不二

□キスの仕方 〜手塚国光〜
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放課後の部室、僕と英二は―――…



「キスってどうやってすんの?」

「は?」






「いや、だからどうやってすんのかにゃーって。」



英二がトントンッと軽く叩いたのはやたらと表紙がピンク色のコミック本。
人差し指を栞にしていたページを開くとなんとも稚拙なキスシーンが現れた。

昔姉さんもこんなの持ってったな。

丸々1ページを使ったなソレは、小学生向けのコミックだというのに口元から舌が覗いている。



「なんだか…最近の小学生はおマセさん、なのかな?」

「くくっ…それ言えてるぜ、不二」



堪らず苦笑いを零すと、英二も笑った。



「そんでさ…」



ペラリと英二がもう1ページ捲る。



「・・・・・。」

「これってどう思う?」



真剣な面持ちでこちらを見つめる英二と、そのすぐ隣には…
さっきの子供向けにしてはロマンティックだったキスが嘘のような小さいコマ。



『ぶはぁあっ…ち、窒息…しちゃう!』

『あ、悪い』

『ハァッ…悪いじゃなーい!!!げほげほっ』


「なにコレ」

「んー…敢えて言うなら、ギャグ?」

「いや、分かってるけど。」



顔を真っ青(漫画は白黒だけど)にさせた女の子と、無駄に顎が尖ったイケメンポジションの男の子。
口から魂が出てるあたり、前のページと違って“らしさ”がある。




「でさ、キスって本当に窒息するもんなん?」

「…さ、さぁ?だって僕もそーいうキスしたことないし。」






「お前たち、何をしている」



割り込んできたのは、決して大声ではないのに低く響く声。

とても聞きなれた声。
連想した人物を思い浮かべて英二と僕は揃って肩を震わせた。

顔を見合わせて恐る恐る振り返ると、やっぱり。
聞き間違うはずもなく 嫌な予感は的中した。



「「て、てづか…」」



いつもより3割増しくらいになった眉間の皺から 相当機嫌が悪いことを察するのは簡単だった。
ちらりと部室の時計に視線を忍ばせれば、とっく部活開始時刻は過ぎていた。
しまったなぁ…



「グラウンド、20周!!!」


「げー!!!」

「・・・・・。」



予想通り。
英二が抗議の声をあげるけど、手塚はそんなに慈悲深い人間ではない。
そんなことわかりきってるけど…



「早くしろ」

「ほいほーい…っとぉ…」



非情な言葉に 英二はジャージを引っ掛け、そそくさと逃げ出した。
僕もそのあとを追おうと足を踏み出す。
“ここは捕まる前に逃げ出してしまおう”、と。



「不二」

「なんだい?」


「いつもしているだろう。キスぐらい」



僕の思考を見透かしたように呼び止められた。

引かれた腕と、重なった唇と、掠れる声と。
そして、たったヒトコトが僕の頭を痺れさせる。

薄暗い部室で見つめ合う僕らの傍らには 英二が放った少女漫画。



「おーい不二ぃ!周回遅れだぞー!!!」



グラウンドから聞こえた親友の声が僕を現実に引き戻した。
我に返った僕は部室のドアノブを回す。



「じゃあ、僕行くよ」

「あぁ、それと―――…」



グラウンドを走る僕の頭は 終始、耳元で甘く囁かれた言葉に支配されっぱなしだった。



「部活が終わったらお前には追加の練習メニューがある。」

「え…」

「覚悟しておけ。とっておきの激しいやつだ」



END...

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