青学×不二

□キスの仕方 〜越前リョーマ〜
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放課後の部室、僕と英二は―――…



「キスってどうやってすんの?」

「は?」






「いや、だからどうやってすんのかにゃーって。」



英二がトントンッと軽く叩いたのはやたらと表紙がピンク色のコミック本。
人差し指を栞にしていたページを開くとなんとも稚拙なキスシーンが現れた。

昔姉さんもこんなの持ってったな。

丸々1ページを使ったなソレは、小学生向けのコミックだというのに口元から舌が覗いている。



「なんだか…最近の小学生はおマセさん、なのかな?」

「くくっ…それ言えてるぜ、不二」



堪らず苦笑いを零すと、英二も笑った。



「そんでさ…」



ペラリと英二がもう1ページ捲る。



「・・・・・。」

「これってどう思う?」



真剣な面持ちでこちらを見つめる英二と、そのすぐ隣には…
さっきの子供向けにしてはロマンティックだったキスが嘘のような小さいコマ。



『ぶはぁあっ…ち、窒息…しちゃう!』

『あ、悪い』

『ハァッ…悪いじゃなーい!!!げほげほっ』


「なにコレ」

「んー…敢えて言うなら、ギャグ?」

「いや、分かってるけど。」



顔を真っ青(漫画は白黒だけど)にさせた女の子と、無駄に顎が尖ったイケメンポジションの男の子。
口から魂が出てるあたり、前のページと違って“らしさ”がある。



「でさ、キスって本当に窒息するもんなん?」

「…さ、さぁ?だって僕もそーいうキスしたことないし。」


「あっ」



唐突に間抜けな声をあげた英二。
彼が指さした方を見れば部活開始時間はとうに過ぎていた。



「やっべ〜…」

「うん、マズいね。」

「あー…ふたりでクラスの仕事押し付けられたってことにしとくから、不二も合わせて」

「りょーかい」



わしゃわしゃと赤毛を掻き回すと、彼はさっさとジャージに腕を通してラケット片手に行ってしまった。
よほど手塚に怒られたくないらしい。



「じゃ、おっさきー」



もう随分遠ざかってしまった元気な声に思わず苦笑いした。
まぁ、そんな彼だからこそ気に入ってるんだけど。
いつだって気まぐれに自由な親友の声を聞きながら、ふと目に付いたのは例の少女漫画。



「キス、ね…」



部室に不釣り合いなピンクの表紙を見つめていたら、なんとなしに口をついた。
本当に苦しいものなのかな?
投げ出されていたコミック本を拾い上げて、僕はマジマジと表紙と睨めっこ。



「ふーん、不二センパイ…興味あるんだ?」

「…え、越前っ!!?」



だから生意気な1年生に見られていたことなんてまるで気付かなかったのだ。
英二が開けっ放しにした部室の入り口からは、悪戯な笑みが覗いていた。


あんなのを聞かれてたなんて恥ずかしすぎる―――…


指の力が抜けて少女漫画は落下する。



「図書委員だったんスよ。サボりじゃないっス」



呆気にとられた僕を尻目に、越前はさっさっと学ランを脱ぎ捨ててテニスウェアに袖を通していく。
あまりにクールな彼。
動揺した自分が尚更恥ずかしくなって、僕の気持ちは所在ない。



「あぁ…そっか。じゃあ僕は先に行ってるよ」



耳まで熱くなっている気のはきっと気のせいじゃない。
そんな自分の姿を後輩に晒したくなかったから、今すぐ部室から逃げ出してしまおうと 僕はラケットに手を伸ばした。

英二と駄弁るのが着替え終わってからで良かった。
ひとり気まずい沈黙に耐えながら 不幸中の幸いというやつに心の中で感謝した。




「待ってよ」




ラケットまで数センチ。
掴まれた手首は強く握られたわけじゃないのに、ピタリと動かなくなってしまった。


敢え無く、逃亡失敗―――…


されるがままに手を引かれて、
据え置かれたベンチに彼だけが土足で上がっていく。
頭ひとつくらい大きくなった越前を『なにするんだろう?』と、僕は ただただ、ぼんやり見つめていた。



「ねぇ、俺がアンタに教えてあげるよ」



キスの仕方を、さ―――…



END...

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