青学×不二

□blue moon
1ページ/1ページ



2012年8月31日―――…



「ブルームーンだね。」

「あぁ、そうだな」



窓の外で満月が輝いている。
網戸まで開けて身を乗り出しているというのに、恋人はちっとも嬉しそうではない。



「蚊が入るだろう。閉めろ」

「うん」



普段は咎めると拗ねるクセに今日は嫌に素直だ。



「どうした、不二。お前らしくもない」

「なにが?」

「ゴネないのか?今日は。」



背後から抱き寄せて、網戸を閉めようとする指を絡め取る。
いつの間にか同じ種類になったシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。



「ブルームーンだけど、意味ないんだ。」



黙って続きを待つ。
不二はじっと空を見上げて、俺はじっと不二のうなじに顔を埋める。



「だって ファーストムーン見てないもん」

「そういうことか…」



ひと月に2度、満月が巡ってくることをブルームーンという。
1度目をファーストムーン、2度目をブルームーン。
つまり今日がブルームーン。



「3年か5年に1度しか来ないのに。
2回目しかこの眼でみてないんじゃ普通の満月と変わらない。」

「そんなワガママを言うな。」

「でも見たかったの。」

「やはりお前はお前だな…」



やはり恋人はワガママ姫だった。
素直に窓を閉めようとしたのは、単につまらなくなったからで、
興味の失せたオモチャを捨てたに過ぎない。



「手塚、それどういう意味?」

「そのままの意味だ。」

「相変わらず愛想な―――…」



文句ばかり紡ぐ唇は塞いでしまおう。
コイツの心の中は手に取るように分かるというのに、生憎 口下手な俺は上手く機嫌をとってやることができない。
唇を離してベタな台詞を。



「不二、月が綺麗だな。」



コバルトブルーがパチパチと数回瞬いて、弧を描く。



「手塚、ベタすぎ。」

「良いだろう、別に」

「ていうか時代錯誤?同い年なのにジェネレーションギャップ感じるんだけど、僕。」

「・・・・。」



随分な言われようだが、コイツが笑っているなら良いだろう。
きっと眉間に皺は寄っているだろうが。



「ねぇ、手塚?」

「なんだ」

「良いブルームーンが見れたよ。」

「意味がないんじゃなかったのか?」

「んーん、意味あった。」

「そうか」



機嫌がよくなった恋人をそのままベッドに引き込んで、互いが満たされるまで何度も抱いた。

いつの間に ふたりして眠り込んで、朝 目を覚ました時には身体中すっかり蚊に刺されていた。
不機嫌な不二の、キスマークに紛れた痒みを見つけてはクスリを塗ってやった。

3年後の7月31日は
その前にファーストムーンも一緒に見て、しっかり網戸を閉めてから恋人を愛してやろう。

そう心に決めながら。



(ねぇ、手塚。
“月が綺麗ですね”が“I love you”なら“once in a blue moon”は“極めて稀なこと”って訳だね。)

(…お前ならばいつでも口説いてやろう。)

(たまにだから嬉しいんだって。)

(そうか)



END...

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ