青学×不二

□失恋の処方箋
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「神様って節操ないよね。」

「なんスか。急に。」

「これ、返却します。」



不二先輩がカウンターに置いた本に目を落として、なるほどね。と思う。
ご丁寧にバーコードの付いている裏面を向けて置かれた本。
今、タイトルは見えないけれど、確かこの前先輩が借りて行ったのは神話の本だった。



「奥さんがいるっていうのにやりたい放題だもんね、彼。」

「そっスね。」



あんまり詳しい事は覚えてないけど、先輩の言う“彼”っていうのが彼の有名な“ゼウス”であることくらいはわかる。



「やっぱやることが違うよね、神様ってのはさ。」



溜め息交じりに先輩は言う。
作り笑顔を作るのに失敗したようなヘンな感じの笑い方をして。



「浮気、されちゃった」

「ふーん」

「そりゃ神様じゃなくても浮気はするよね、うん…」

「・・・・。」



彼女いたんだ。
落ち込んでる先輩には悪いけど、どっかの女が浮気したとかなんとかよりも、
そっちの方がずっとムカついた。



「ねぇ、越前」

「なんスか」

「おすすめの本、ないの?」



『できればベタベタで甘々な恋愛モノ』なんて自嘲気味に。
オレは彼女の存在にムカついてたし、そんな本はそもそも読んだことない。



「先輩、オレがそんなの読むように見えるんスか?」

「うん、見えないね」

「でしょ」



先輩は相当弱ってるらしかった。
力なく笑うと、さして興味もないだろうに返却処理を済ませた本の山を弄り始める。
今日バーコードリーダーにかざした中に、先輩のいう『ベタベタで甘々な恋愛モノ』はなかった。多分。

ふいと先輩から視線を外して、的もなくぼんやりと本棚を眺める。
マジ、聞いてないよ。彼女とか。



「これ借りよっかな」



しばらくして先輩が見つけてきたのは―――…



「なんスか、コレ。」



水色の表紙には『失恋のおくすり』と。
確かにあった。
今日返却処理した中にそんなの、あった。



「アンタ、ばか?」

「…失礼だよね、君って。」



溜め息を吐いて先輩の手から『失恋のおくすり』を取り上げる。



「あっ、返してよ。僕の処方箋」

「ヤダ」



そのままグイッと白い手首を引くと、細い身体がいとも容易く倒れ込む。
もう今にも壊れてしまいそう。
貸し出しカウンターに手を着いた先輩の手を上から包み込むように抑えて言ってやる。



「ねぇ、オレが処方箋になってあげるよ。不二センパイ。」

「は?」

「おくすり、オレがなってあげるって言ってんの。」



イマイチ飲み込めてない先輩に、返したばかりの神話の本を見せて言う。



「オレなら神様になったって浮気しないッスから。」



目を見開いて硬直する先輩。
カウンターに向かって傾いた先輩に触れるだけの口付けを仕掛けて。

今日の先輩、ほんと、信じられないくらい隙だらけじゃん。



「だから試してみなよ。使用期限は一生。」



真っ赤になった先輩に向かって、ニヤリと口端をあげて笑った。
ゴメンネ、先輩。弱ってるトコに漬け込んで。

でもさ、効き目はオレが保障するから。



「ねぇ、どうする―――…?」



END...

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