青学×不二

□Reason
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「告白しないの?」

「…なんの話だい?越前。」



返却処理を済ませた本を棚に戻していた越前が、不意に。

ニヤリと口角を上げた越前にドキリとして、返事まで一瞬間が空いた。
ドキリ、というのは悪い意味で。

夕日が射し込む図書室は静かで、その一瞬が僕自身にとって、とてつもなく大打撃だった。
もうこの時点で僕の負けな気がした。

借りようと思っていた本を支える指に、無意識に力が入った。



「好きなんでしょ。」

「だからなんの話してるの。」



越前が言いたい意味はわかっていた。
身に覚えがあったし、越前にはなんとなく前から見透かされているような予感がしていた。
そこまで承知で、僕は尚もシラを切ろうと試みる。

きっと、数秒後には失敗してるけど。



「なんの話か言っていいの?」

「だからなんの話か聞かないとわからないだろ。」

「ふぅん」



越前の猫目がちょっぴりせせら笑うように形を変えた。

先輩に向かって、失礼な奴。やっぱり甘やかし過ぎたのかもしれない。だなんて。
土壇場にきて思い直したところで遅いけど。



「じゃあ言うけどさ、」



棚の方を向いたまま喋っていた越前が、ここにきて初めて僕の方を向いた。



「部長のこと、好きなんでしょ。」



窓から差し込むオレンジ色の光が後光みたいに差してたけど、
生憎と、かなり悪い笑みを浮かべた悪魔さながらの越前が神々しく見えることはなかった。
間違っても、だ。

最初の最初に思った通り、完全に僕の敗北だった。



「バレてた?」

「まぁね」

「いつから?」

「何が?」

「僕が手塚のこと好きだって、いつから気付いてたの?」



どうせバレてるなら今更言い訳しても仕方ないし、きっと越前に嘘なんて通じないし。
ならいっそ。と開き直って、僕は聞きたいことを聞いてみることにした。



「まぁ。けっこう最初の方からかな。」

「最初って?」

「最初って言ったら最初。」



ホラ吹きとかじゃなくて、それって本当にかなり最初の方なんだろうな。って妙に納得させられた。



「それで、告白しないの?」

「うん。しないよ。」

「なんで」

「勝てない賭けに出るほどバカじゃないよ。」



そう、バカじゃない。それと後は、僕の中に巣食ってる弱虫のせい。

弱虫でズルい僕としては今のままの安定的な居場所で十分満足だった。
どうせ叶わない恋なら。望む通りの形でなくとも手塚の傍に居られれば、それで。

それにしたって、だ。
僕はそんなに分かりやすい態度とってただろうか。



「ねぇ、不二先輩」

「うん?」

「心配しなくても多分他の人は気付いてないよ。多分だけど。」



僕の憂い事をあっさりと見抜いて越前は最後の一冊を棚に戻し終えた。
まんまりにも、全部が全部筒抜けすぎて僕は思わずこう訊ねた。



「越前はエスパー能力でも使えるの?」



僕のかなりしょうもない質問に、越前はふいっとそっぽを向いてしまった。



「別に」

「うん。そうだよね。」



片想いの話をしてるはずなのに不思議と笑えた。
その通りに、僕はクスッて小さく笑う。



「別に。オレが他の人より見てるってだけなんじゃないの。アンタのこと。」



………待って、今なんて言った?

そんな訳で、僕は途端に笑ってられなくなった。
越前は本を戻し終わったし、僕はとっくに借りたい本が決まってるし。

さて、この空気。どうしたものだろうか。



END...

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