青学×不二
□お弁当
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「やぁ、海堂」
「………不二先輩」
不二先輩が、昼休みにオレの教室に来た。
部活の言伝だろう。
そう思って立ち上がりかけたオレを、先輩は手振りだけで制して、
そいつは学食へでも行ったのだろう。不在の前の席の椅子を横向きに座って、
やたらに楽しそうにオレに笑いかけた。
その笑顔に触発されたようにクラスがザワついた。うるせぇ。
中でも小さく上がる黄色い悲鳴はひどく耳障りに感じる。
感じるが、不二先輩が気にしていないのならオレが騒ぎ立てるのも筋違いだろう。
それに、まあ。
わからない訳ではない。騒ぐ奴らの気持ちが。
ただでさえ凛とした佇まいの不二先輩は、
オレたち2年にとってしてみれば正に高嶺に咲く花のようなモンだ。
「で、何の用ッスか」
そんな不二先輩が、唐突にやって来て一体なんのつもりだろうか。
きっとオレの疑問を見透かしているであろう先輩に問えば、先輩はますます微笑みを増して、
「お弁当を、食べさせて貰おうと思ってね。」
は―――…?
◇◆◇◆◇
「…何言ってんスか」
「だめ、かな?」
あらかじめ踏んでいた、部活の言伝とはかけ離れた用件にオレは目を見開いた。
こてん、と首を傾げた先輩は大層カワイ、………じゃなくて、
オレは動揺を隠すために片手で顔を覆った。
一体何だってンだ…?
「だめ、って訳じゃ…ねぇッスけど…」
「じゃあ、食べても良いの?」
「まぁ、どうぞ…」
弁当?わざわざそれだけのために2年の教室にやってきたというのだろうか?
クソ…まるで真意が掴めねぇ…。
どことなくいつものとは違う、無邪気な笑顔で前の席に座る不二先輩。
今更だが、その裏側は全く読めず、
「試合の時に見てからさ、いつか食べてみたいと思ってたんだよね。」
不二先輩の言葉にオレは「あぁ、」となんとなく納得させられた。
何度か前の試合の時に先輩に「すごく豪華なお弁当だね。料亭みたいだ。」と言われたことを思い出したのだ。
確かに。
今も、その時と同じように広げてある漆塗りの重箱はそう思わせるに足る存在感を放ってはいる。
が、いやしかし。それにしたって、だ。
わざわざこうして訪ねて来てまで食いたいと思うモンなのか?
戸惑うオレを余所に、不二先輩の方はオレの弁当箱を覗き込んでいて、
「やっぱり凄いね。君のお弁当は」
なんて感心した風に呟いている。
興味津々、とそんな言葉がカッチリとハマりそうな不二先輩があまりに無邪気で、
反してオレはつい言葉が無愛想になってしまう。
「…そんなこと、ねぇッスよ」
「ふふっ、そんなことあるよ。」
「…どうも」
「とっても美味しそう。本当に良いの?」
「別に、」
構うもんか、と。
先輩の行動はイマイチ意味が分からないが、嫌なことなど微塵もない。
照れ隠しの無愛想が先輩にどう映ったかは分からないが、本当に。
あるはずない。
なぜならオレは―――…
「なんでも好きなもん、食ってください…」
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて」
オレは、オレは、
オレは、先輩のことが―――…
「フシュー…ッ…」
END...