四天宝寺×不二

□メランコリック↓ヒートアップ↑
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「………なんでやねーん」

「いや、ちゃうやろ!
 そらコッチの台詞やわ!なんでやねん!」

「白石、暑苦しいよ」

「不二クンはえらい冷たいなぁ…」




夏休みも もうじき終わる。

とはいえ、夏休みが終わるからといって暑さが和らぐワケではない。
あと数日で 再びあの蒸し暑い通学路を往復する日々が舞い戻って来る。

猛暑が去ろうが、所詮残暑なのだ。
気分はマリアナ海溝よりずっと沈んでいる。




けれど、僕が憂鬱なのは実はそのせいではないのだ。


冒頭の台詞と共に ぺちんっと白石の額に扇子を叩き付けた僕は、
そのまんまの格好で ぼんやりとミルクティー色した髪を見つめる。




嗚呼、残りほんの何日かでこのミルクティーも見られなくなるんだ―――…




クーラーもろくに効いていない白石の部屋。
首筋に張り付いた襟足の髪さえ妙に色っぽく映って なんだかムカついた。


夏休みが終わってもずっとずっと一緒にいたかった。
無駄にカッコイイ彼を僕のいないところで人目に晒したくなんかなかった。
要はただの独占欲。


自分でも思う。
とてつもなく、“重い”と。

でも、長い長い遠距離恋愛に押し潰されてきた彼への想いは、
いつの間にやら自己嫌悪で抑制しきれるほど、軽いものではなくなってしまっていた。



8月に入ってから 白石の家でお世話になった数週間は、もちろん楽しかった。

唯一、白石がカブトムシを気遣っているが故の異様な室温以外はすべて。



「寒いね、白石。」

「おん、わかってるで。
 せやからもう遠回しに言わんでもええねん…ええねん…」



ちがう。
ちがうよ、もっと一緒にいたいんだ。

暑い部屋でも構わない。
きっと君がいない東京に帰ったら僕は凍えちゃう。

確かに白石はちょっと寒いから、だから、うん、それで丁度いい。




「てか自分、暑苦しい言うたり 寒い言うたりてんでんばらばらやんなぁ」



ひとり納得していたところに白石の声が割り込んできた。
なにがそんなに楽しいのか解らないけど、喉咽を鳴らす様まで無駄にキマってる。



「あぁ、もうすぐ夏休み終わってまうなぁ…」

「うん…」



白石が笑い止んだ瞬間、糸が切れたみたいに静かになる。


コロン コロンと鉄製の風鈴がよく聴こえる。




「なぁ、不二クン。」




ひぐらしも鳴いている。
今日も、もうすぐ、終わってしまう。





「来年もコッチ来て一緒に スイカ食べよな…」





驚いた。
ジッと見つめるから何を言うかと思えば…




「そこ、来年も一緒に花火観ようねってなるとこでしょ…」

「ええやん!
 スイカかて風物詩や!風情あるやん!」




もう―――…


なにやら『今の取っておきの口説き文句やってんけど…』なんてぼやいてるのを横目に。


取り越し苦労にも程がある―――…




「ほんと無駄ばっか。
 あー…もうっ、やっぱ暑い!暑苦しい!
 白石もう少しあっち行ってよ!」

「ちょお!不二クン、俺かて さすがに傷付くわぁ…」


こんな調子なら しばらくは心配なさそうだ。





さあ、残りの夏休みを満喫しよう―――。





「せや!シルバーウィークまでの辛抱やん!」

「白石、今年はシルバーウィークないよ。」

「あかーん!!!」

「やっぱり暑い」


ピッ


「カブリエルー!!!」



ほらね。
僕の恋人は、やっぱり残念。


(でもね 僕が入れたの、本当は暖房なんだよ。白石。)



END...

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