四天宝寺×不二

□ざいぜんとぜんざい。
1ページ/1ページ



高校2年生になったなんてことないある日。

ぜんざい食べたいな。ってなんとなく。
それでスーパーに売ってるカンタンなやつを買いに行った。

スイーツコーナーにはシュークリームもエクレアも、プリンもなにもかもあったけど、
やっぱりぜんざいの気分で、最後の一個になった白玉ぜんざいに手を伸ばした。



「「あ。」」



ぜんざいに伸びた僕以外の誰かの指に思わず声が漏れた。
びっくりするくらい冷たい指先の先を追って、もっとびっくり。



「え、君。財前くん、」

「・・・・。」

「だよね?違う?」

「はぁ」



冷めたような瞳に左右合計5つのピアス。
中学最後の全国大会で見かけた顔に、思わず問うてみるけれど 煮え切らない反応。

まさかとは思うけど、人違い?



「お久し振りっす」

「よかった…人違いかと思ったよ。」



焦りかけた思考を切断するように、無愛想な返事が返ってきた。
ほっと息を吐く。



「奇遇、ってことはないよね?だって、」

「今は東京に住んどります。」



だって、君大阪に住んでるんだよね?
そう言い終わる前に、向こうからその理由を明かされる。



「そうなんだ。」

「まぁ、それより」



ふぅんと首を縦に振ると、財前はすぃと これまで下げていた腕を上げ、ある一点を指さした。



「いつまでこうしてるつもりなんすか?」

「あ」



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



「ほんまにえぇんですか?」

「うん、構わないよ」



結局カップ入りの白玉ぜんざいは彼に譲って、僕たちはスーパーの近場にある公園へと向かっていた。



「それに、君におごって貰っちゃったしさ。」



そう言って彼の下げるビニール袋を指さすと、無言で頷く。

僕の白玉ぜんざいは、りんごのクレープに化けた。
ぜんざいを譲ると言ったら、『そしたら何や奢らせてもらいますわ』と彼が提案してきたから。

僕が大丈夫、と返す前に『選ばないんやったら勝手に選んでまいますよ』なんて言って、
K-POPのアイドルグループが宣伝している お酢のジュースみたいなものを『買うたからには絶対飲んでもらいますわ』と指さすものだから、
僕の方も慌てて馴染みのりんごクレープを指さしたのだった。



そう離れていない公園に着くと、何を言う訳でもなく揃ってベンチに腰を下ろす。



「どうぞ、」

「ありがとう」



クレープを僕に、ぜんざいを自分の膝に。
ぐしゃぐしゃにせずに きちんと袋を畳んで鞄に仕舞うのを、結構几帳面なんだな、と思いながら眺めた。



「なに見とるんですか?」

「何でもないよ。」



くすっと笑って答えると、彼は僅かに眉間に皺を寄せた。



「東京の高校に通ってるの?」

「まぁ、」

「テニスは続けてる?」

「続けとります。」

「じゃあ今度打ち合わない?」



無言。
ちょっと厚かましい提案だったかな?と不安になって彼の顔を覗き込むと、
コクリと頷いて、すぐに顔を逸らされてしまった。



「近いっすわ」

「あ、ご、ごめんね!」



慌てて元の姿勢に戻る。



「ぜんざい、好きなんすか」

「んーん、ふつう。」

「そッスか。」

「でも今日は好き、な気分かな。」



ワケわからん。
そう言って小さく笑う財前に、不覚にも胸が高鳴った。

なに、コレ―――…

不可思議な感覚を揉み消すように僕は言う。
それはスーパーで指が触れあった時からの疑問。



「その名前って偶然?」

「さぁ、どないでしょう」

「だよね。」



当たり前だ。
財前のお母さんだって、まさか息子がぜんざい好きになると見越して
財前という男性を捕まえるワケはないだろう。

また沈黙。

何か話さなきゃ。
共通の話題なんてテニスしか持ち合わせていない。
とりあえずラケットはどこの使ってるの?なんてどうでもいいことを言いかけた。

言いかけたところで、思いがけず財前の方から、



「不二さん」



名前を呼ばれた。



「なに?」



さっきから殆ど合わなかった彼の黒い瞳に、
不思議そうに首を傾げる僕がしっかり映って見つめ返している。

なかなか口を開こうとしない財前の瞳の中で、僕が更に首を傾ける。
それで財前はやっと口を開く。



「会うたの、ほんまに偶然やと思ってはるんですか?」

「え?それ、」



どういうこと?
これ以上首を傾けようのなかった僕はきちんと直る。

また目を逸らされた。



「ほんならクイズしましょ」

「うん?」



脈絡がない展開に僕はぱちぱちと瞬き。

財前は僕の疑問など意にも介さずぜんざいを口に運んだ。
とりあえず、僕もそれに倣ってりんごクレープを一口食べた。



「じゃ、第一問」



ゴクンと喉を鳴らした財前が長い人差し指を空を指した。
もぐもぐしたまま僕が頷くと、しばらく待って、呑み込んだのを確認してから、



「なんで俺が四天宝寺通うとったと思います?」



と、言われた。
僕はしばらく考える。癖で右手は顎に。



「テニス、強いから?」

「不正解ですわ。」

「え、違うの?」



僕はポカン。
財前は言った、ごくごく中学生らしい普通な答えを。


「家から近いから、そんだけです」

「あ、なるほど。」



確かに。
学校を選ぶのに、交通アクセスというのはかなり重視すべき点だ。
三年間通うのだから尚更。



「じゃあ、第二問」



もっともな理由に変に感心して、ひとりうんうん頷いている間に、
財前の人差し指に加えて中指がスッと伸びる。



「その俺が、なんでこない遠いとこまで出てきたと思います?」

「んー…っと。」



うん。これはなかなかに難問だ。と、僕は唸る。
その間に財前はぜんざいの容器を空にした。
それほど長いこと考え込んでいた。



「お手上げッスか?」

「うー…、悔しいけど、うん。お手上げ」



肩を竦めて僕が言うと、
財前はぜんざいのカップを公園のクズかごに放り投げた。
さすが、ホールインワン。

模範回答待ちの僕が、また漆黒のなかに浮かび上がっていた。



「アンタを、追っかけてきたんですわ」



財前の唇は、餡子の味がした。
ちなみにこれが家族以外との初めてのキスだった。



END...

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ