四天宝寺×不二

□浪速、ラブアンドピース。
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「あんな…」



今日も騒がしい四天宝寺中学校の部室に、スッと通る声。

別に、なんだ。
そう大きい声でもなく、寧ろほんの呟いた程度の声だったのだが、
部活後の部員は皆、ふとお喋りを止めた。



「どないしたん、白石」



と、謙也。

そのまま、持っていたコーラを流れ作業のように口に含む。
本当、なんてことない行為なのだが、
とある人物は後々これを阻止しなかったことを後悔することとなる。



「俺も染まってみよう思うねん」



白石の言葉に一同きょとん。

その中の一人、着替えの途中だったらしい小石川が、ユニフォームを脱ぎながら「何にや?」と聞き返す。



「モーホーってヤツに、や。」

「ぶっーーー!!!」

「うっわ、謙也さん汚いッスわ。」



もちろん、真ん中のセリフ(もはや効果音)は謙也のものだ。
そして十数行前に触れた“後悔した人物”はというと、『汚いッスわ。』といった財前ではなく、小石川。
丁度ワイシャツを羽織ろうとした裸の上半身は、モロにコーラの霧に包まれていた。



「モーホーってなんなん?」



何もわかってないような金ちゃんの耳を、謙也がそっと両手で塞いで



「突然どないしたん、白石」



と、いやに真顔で言った。
意味が解らないし、金ちゃんの教育上よろしくない、と言いたいようだ。



「先輩らに中てられでもしたんスか」

「やぁんっ、光くんったら冷たいわぁ〜、そないなトコも可愛えぇけどぉ〜」

「浮気か!死なすど!!!」



こちらは、年上ふたりを思いっきり指さしながら言う財前に、
それにウフフなカンジで絡む小春と、言った傍からさっそくモーホー全開のユウジという構図。

その間に、銀さんが無言で小石川にタオルを渡していたが、
コーラをミスト噴射した謙也は、もうそんなことは全く気に止めていなかった。
興味をなくすのもスピードスター。

そんな謙也は白石に、「それで?」と続きを促す。
白石は『おん、』と、ひとつ頷き、こちらも着替えの最中だったらしい。
ポツポツとシャツのボタンを留めながら口を開いた。



「そういう世界もアリ、かも思うて」

「はぁ?」



謙也もスルーしていた割に一応の学習はしたらしい。
さっき程驚くことはないにしても用心、ということだろう。
緩く、適当にキャップを閉じたコーラが、謙也の脇、ベンチに鎮座していた。

なぜキャップをちゃんと閉じていないのかと言えば、金ちゃんの両耳を塞ぐのに忙しいからだ。
別に謙也とて、本当は炭酸の抜けきったコーラを飲みたくはない。



「ばってん、」



お前いつから居たの。な千歳は
唖然と口を開きっ放しな間抜け面のレギュラー陣をこちらも全く無視して言う。



「白石はどっちと?」

「どっちってなんや?」

「突っ込みたいか、突っ込まれたいか。たい。」

「ぶっーーー!!!」

「だから、汚いッスわ」

「そんなん、」



平然と言って退ける千歳、噴き出す謙也(コーラじゃない)、嫌そうな顔をする財前。



「抱く方に決まってるやろ」

「ほうなん?」

「不二クンに抱かれるなんて考えられへんわ。」

「あー…」



言い方をソフトに変えたとはいえ、真顔できっぱりと結論付けた白石。
謙也はもうここにきて驚きはしなかった。ちなみに『あー…』は謙也の『あー…』である。

なんか、よく分からないけど、『あー…』だった。
多分コーラを飲んでいたとしても噴き出しはしなかった。と、謙也は思う。

なんとなく。
よく分からないが、アホらしいほどすんなりと腑に落ちてしまったから。



「っちゅーかそれ、染まってみようとかいう話ちゃうやん。」

「とっくにベタ惚れやないッスか。」



呆れる謙也、財前と



「恋に性別は関係なかとよ。ふん、よかよか。」

「蔵リンも仲間入りやねぇ〜」

「ようこそ、我々の軍団へ!」



ノリノリの千歳、小春、ユウジと



「なぁなぁっ、なんの話しとんの〜?ワイも混ぜてぇな〜」



相変わらずきょとん(謙也の功績)な金ちゃんと



「こっちもベタベタや…」

「小石川はん、家に帰るまで辛抱しやりや…。」



未だにコーラから進展しない小石川、銀さんと



「ハッ…!悩んどった時間めっさ無駄やん!!!」



やっぱりこれは恋心か、と自覚した途端そんなことを言いはじめる白石だった。



本日も四天宝寺中学校テニス部は平和です。
それは、部長が男色に目覚めたくらいのことでは決して崩れません。
せいぜい誰かしらがコーラまみれになる程度で。

こんなところにも、ラブアンドピース―――…



END...

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