四天宝寺×不二
□浪速、ラブアンドピース。その後。
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さて、白石モーホー事件(またの名を、小石川コーラまみれ事件)の翌々日。
今日も、部活終わりのメンバーは部室にて一同に会していた。
着替えも終盤に差し掛かった謙也は、ベルトの金具を留めながら『あー、喉渇いたわぁ』などと思っていた。
既にお気付きだろうが、これは死亡フラグ。
「先輩。」
テンション右肩下がりな声が部活の喧騒をカチ割った。
今回はどうやら財前のターン。
なんと!これは珍しいことだ!!!と、メンバーは揃って瞬きをする。
「先輩ってどの先輩やねん」
と、今回もまずは謙也。
切り返しもスピードスター。便宜上。
そう問い掛けながらも指先はおもむろにアクエリアスへ。
性懲りもない奴め。
という話だが、彼としては(否、謙也としなくとも)単なる日常の一動作であるから咎めようもない。
先述、今回もある人物が被害に遭うにすぎないから構わない(勿論だが当人としては大問題)。
「もう突っ込み済みなんですか?部長。」
えーっと、なにが?
全員の頭上にはお揃いのクエスチョンマークが浮かんでいる。
その中の一人、今回も着替えの途中だったらしい小石川が、ユニフォームを脱ぎながら「何にや?」と聞き返す。
もうこの辺りで、『アレ?デジャヴ?』と思うところだが誰も気にしない。
「ツッコミ?せやなボケも」
「ちゃいます。不二さんの話ですわ」
「おん?」
なんやお笑いの話かいな。と自己解決した白石が答えはじめるが、
言いっ始めの財前は手のひらをヒョイヒョイ横に振る。
「せやから。もう不二さんとヤッたんか聞いとるんですわ。」
「ぶっーーー!!!」
「ちょおっ!勘弁してぇな謙也!!!」
もう今更だが、真ん中のセリフは謙也のものだ。
そしてくどい様だが十数行前に触れた“後悔した人物”はというと、『勘弁してぇな』といった白石ではなく、以下略。
いちいち言うのも面倒だが、今回も彼は運悪く着替えの最中であって、上半身にアクエリの飛沫を受けていた。
「ヤるって何するん?楽しいん!?」
今度ばかりはさすがにマズイ、と白石が慌てて金ちゃんの耳を塞いで
「そらアカンわ、財前」
と、いやに真顔で嗜めた。
金ちゃんの教育上よろしくない、の他にもいろいろ『アカン』と思っていたし。
「あらぁ〜光くんまで染まってもうたん?なんや恥ずかしいわぁ〜」
「ちょお黙っといてもらえまへんか。」
「小春に何言いよんねん!シバくど!!!」
ウフフなカンジで絡む小春と、モーホー全開のユウジと、それを冷たく突っぱねる財前。
…と、まぁこちらも構図的には大々的な変化なし。
ちなみに銀さんは学校裏の滝にて修行中。
ひとり悲しい小石川は泣く泣く自分でタオルを手に取った。
言い忘れていたが、今回の謙也は残念ながらミスト噴射に失敗してしまったらしい。
その場合、いかに悲惨な事態かはご想像にお任せしよう。
(ちょっと分からないという人の為に説明すると、ベッっ!となる。ベッ!と。)
そんな謙也は財前に、「突然なんやねん。で?」と続きを促す。
財前は『まぁ、』と、ひとつ前置いて、憐れな小石川を一瞥(声は掛けない)した後。
ピアスを弄りながら口を開いた。
「いや、前以って聞いとかなアカン思いまして。」
「おん?」
謙也は不思議顔でアクエリを飲む。
ある人物にとってこのさり気ない一文が何気に重要。
「そぎゃん事聞いてどうしよっと?」
あれ、どこから湧いてきたの。な千歳にさして驚きもせず、財前は淡々と。
「心構え、ですわ」
「純愛か略奪愛かの心構えでもすっと?」
「ぶっーーー!!!」
「だから、えぇ加減にしぃや謙也!!!」
「まぁ、」
面白いモノ見ぃつけた♪な千歳、噴き出す謙也(ミスト噴射成功)、ドン引く白石。
「そんなトコですわ。」
「財前、」
「まだ手ぇ出してないって分こうとりましたけど。」
「あー…」
白石を遮ってにやりと笑ってみせる財前。
謙也はもう頭が痛かった。『あー…』は謙也の『あー…』。
よく分からないとかではなく、『あー…』だった。
詳しくは機会があればその折に。
「宣戦布告っちゅー話かいな。」
「なんや財前。ちょっとの間に随分偉なったもんやな。」
呆れる謙也、と静かに怒れる白石
「面白かなってきたばいねぇ。ふん、熱か熱かぁ。」
「光くんも仲間入りやねぇ〜」
「よっしゃこの調子で勢力拡大やな!小春ぅ!」
ノリノリの千歳、小春、ユウジと
「最近内緒バナシばっかりやん!なぁ、なしてなん?」
ちょっと落ち込み気味(白石は困り顔)な金ちゃんと
「………」
銀さん不在の為、ひとりぼっちで涙する小石川と、
「部長には負ける気ぃしませせんわ」
それから、すっかり悪人面した財前が、何やら良くないことを考えていそうな顔で笑うのだった。
本日も四天宝寺中学校テニス部は平和です。
それは、生意気盛りな2年生がちょっと部長に盾突いたくらいでは揺らぎません。多分。
せいぜい誰かしらがアクエリアスまみれになる程度で。
やっぱりここには、ラブアンドピース―――…
END...