立海×不二

□妄想電話
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「せんぱ〜い!妄想電話って知ってますかぁ?」



赤也の“先輩”と呼ぶ声が、誰を呼んでいるのかが不明瞭で
とりあえず、俺たちは全員 買い換えたばかりのスマートフォンを振りかざす後輩に目を向けた。



「なんじゃ赤也、そげん騒ぎよって…」

「いや、妄想電話ッスよ!にお先輩!!!」

「はぁ?なんだよぃ。それ」



仁王も丸井も顔をしかめていたけど、困った後輩は話にノってくれたものと思ったのかニンマリ笑って、丸井の手にスマフォを押し付けた。



「なんだよ赤也」

「ブンちゃん、鳴ってるぜよ」

「うおっ、赤也!着信」

「丸井先輩出てくださいッス!」



もとより困惑顔のブン太の手の中が震え出すものだから、
丸井は慌てて赤也にスマフォを返そうとしたけれど、赤也はそれをアッサリ避けて
何を思ったか 代わりに電話に出るように と言う。



「はぁ!!?意味わかんねぇよぃ!」

「切れるぜよ、ブンちゃん」



結局、躊躇っていた丸井は仁王に急かされてしぶしぶ通話ボタンをタッチする。



『もしもしぃ?』

「え、お…女かよぃ!おい赤也!」



確かに聞こえてきたのは女の声だった。
しどろもどろの丸井は、助けを求めるように赤也を見たけれど当の赤也はまったく気に留める様子もなく、
むしろそんな丸井を楽しそうに眺めるばかり。



『今日はありがとう…』

「え?あ、は!?ちょ、赤也!!!」

『話聞いてくれてすごく嬉しかった…』

「なんの話だよぃ…知らねぇよ、俺…」

『もう大丈夫…』

「…っ…なにが…?」

『ありがとう…ふふっ』

「どいたまして…」



諦めたらしく渋々応答する丸井を見て、仁王と赤也がニヤリと意味深に笑った。
バカだね、丸井も。



『そんなに優しくされたら…』



そしてついに山場が来た。
タネが分かっていても可笑しくて、口元を必死に引き締めた。
赤也も仁王もヒドイ顔。



『好きになっちゃうよ…』

「はぁぁあああああっ!?」

『…なぁんでもないよ』

「…っ…///」

『またメールするね?…うん』

「え、おい…!ちょっと待てよ!」

『じゃあね、ばいばい』



「切れ、た…」



髪の毛と同じ色に染まっている丸井が
口をパクパクさせたままこっちを振り返るから俺たちはやっと笑いを堪えるのを止めて存分に笑った。



「ちょ!なんで笑ってんだよぃ!?」

「もう少しまともに会話するの期待してたんだけどな、俺。」

「本当ッスよ〜」

「まぁ、その真っ赤な顔で十分ぜよ。」


素直に感想を述べると赤也もノっかってくる。
仁王もクックと喉を鳴らしながら仕方ない、という風に言う。

丸井だけが相変わらずハテナマークを頭上に浮かべて固まっている。



「ブンちゃん、それは妄想電話じゃ」

「妄想、電話…?」

「スマホのアプリで、誰かから電話が掛かってきたっていうシチュエーションを楽しむんだよ。」



アホ面を晒しっ放しの丸井に説明してやると、赤かった顔がみるみる真っ青になっていく。



「はぁあ!?俺ハメられたのかよぃ!?」

「まぁそうなるぜよ。」

「あ〜か〜や〜」

「なんで俺だけなんスか!!!仁王先輩と幸村部長も共犯ッス!」



遂には丸井が赤也を追い回しはじめて、いつの間にか 今度は赤也が丸井を追い回していた。

赤也が『俺のスマホ返して下さいッス!!!』と嘆いているから
きっと丸井は、赤也のスマホをダシにしているのだろう。

走り回るふたりと、それを眺めるふたり。



「元気だね、ふたりとも」

「やかましいぜよ。」



俺たち4人以外誰もいない、夕暮れのテニスコート。

ふたりは俺たちが大して言葉を交わさないうちに こちらに向かって歩いてくる。
項垂れる赤也、スマホは未だ丸井の手中だ。勝負あったみたいだね。

そんな風に思っていたらまたバイブ音が聞こえた。



「ちょっと外すナリ」



ヒトコト残して去っていく銀髪に軽く手を振って、ポケットの中を探る。
俺の携帯も鳴ってるね。



『もしもし?』
(唐突じゃのう…)
「やぁ、4日ぶり。」



スピーカーに耳に押し当てるれば高めの心地いい声が聴こえる。



『昨日は楽しかったよ。ありがとう。』
(そうか…、良かったぜよ。)
「…昨日?」

『君が水族館なんて、ちょっと意外だった』
(ククッ…そうかもしれんのう。でもお前さんは楽しかったんじゃろう?)
「そう?俺に水族館って似合わないかな?」



心外だな。なんて。



『うん、とっても。』
(俺は魚よりお前さんを見てる方が好きなんだがのぅ)
「そんなに似合わないか…俺は好きだけどね。」

『ふふっ…やだな。僕も好きだけどね…』
(ピヨッ)
「うん、似合うと思うよ。」



君の海碧色の瞳が水槽を映していたなら、きっと世界中のどんなサンゴ礁より美しいだろうね。
俺も見たかったな。



『ねぇ、今週末僕の家…来ない…?誰も居ないんだ。』
(それは誘ってると受け取ってええのかのぅ?)
「へぇ、誘ってるの?」

『ちょっと!…ち、違うよ…』
(覚悟しときんしゃい)
「覚悟しといてね?」

『待っ―――…』



電話が切れた。
もちろん、俺は切ってない。そして引き留めた君もきっと、切ってない。

とっくに戻ってきた丸井と赤也が俺を見ている。
電話に夢中になっている間に、赤也はスマホを取り返したらしかった。



「電話ッスか?」

「そう、電話。」

「誰だよぃ?彼女?」

「ふふっ…秘密。」



だってこんな事だれにも言えないだろう?
特に、今ここに居ない アイツにはね。



「あ、仁王おかえり。」



ヒラリとさっきみたいに手を振る。
ん、とだけ頷く。心なしか機嫌の良さそうな仁王に。



「仁王先輩も電話ッスか?」

「彼女か?」

「丸井先輩、そればっかッスね。で、彼女ッスか?」

「さぁのぉ?」



意味深に口元を緩ませているのは、やっぱり週末に楽しみができたから、かな?
俺も楽しみなんだけどね。



「なんスかふたりして。」

「ふたりとも妄想電話だったりして」

「いや、丸井先輩じゃあるまいし…」

「赤也!!!」

「ヒィっ」



紫がかってきた空をバックグランドに、再び騒ぎ始めるふたりを眺めて。



「元気そうだね。」

「そうじゃのう。」



元気そうだね―――…。

水族館は楽しかった―――…?

好きだよ、誰より―――…。

週末は、どうやって過ごすの―――…?

不二―――…。



俺の声が聞こえないんじゃ、会話が成り立たないよね。
でも、今は一方的な会話だって満足できるよ。
噛み合わなくたって構わないよ。いつか、噛み合うようにしてみせるから。待っててね。



俺と、君と、妄想電話―――…



END...



盗聴は犯罪です。文字反転で仁王×不二に...?

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