氷帝×不二

□果報は寝て待て!
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「果報は寝て待て、ね…」



お世辞にもキレイとは言い難い文字で、高らかに綴られた一言。

書いた本人はというと、相も変わらず熟睡中だ。
しかも、僕のベッドで。



「君、ほんと僕の家に何しに来たの?」



返事がないのはわかってるけど、言わずにはいられない。
起きる気配皆無の君のほっぺをグリグリ押してる僕は、正直言って不機嫌だ。

涙目になりながら縋ってくるから仕方なく部屋に上げてあげたのに…



「テスト、どうなっても知らないからね〜?」



古典が苦手で苦手で太刀打ちできないって僕を頼ってきたのは君だよね?
なのになんで、来て早々に君は…



「寝てるんだよ!!!」

「ぐ〜…」

「・・・・・。」

「ふがっ」



もうやだ。もうやだ。
僕だってテスト前なんだってわかってる? やっぱり連れて来るんじゃなかった。

大体恋人の部屋に上がり込んで早々寝るなんて―――…



「………ヒドイ。」



苦手な理科の範囲、まだ全部終わってないんだから。



「ねぇ、君んトコの部長さんでも頼りに行っちゃうかもよ?」



あの、偉そうな幼馴染に苦手科目なんてないもの。
きっと悪態吐きながらも甲斐甲斐しく面倒を見てくれるだろう。
ねぇ、良いの?


開いてから3分も経たずに持ち主に寝オチられた古典のノートの端っこ。



「果報は寝て待て、ね…」



座右の銘とかなんとか言ってたけど、本当に意味わかってるんだか。



「あのねー…ジロちゃん。
 果報はただ寝て待ってるだけじゃ来ないんだからね?」



綿あめを、こめかみから指を通して絡め取る。
ふわふわの髪を梳きながら、熟睡中の阿呆な恋人に訊ねてみる。



「あーもー、わかってないんだろうな…」

「ん…ぅ…まじ…まじ…く…まじ…っ…ま…じ…」

「・・・・・。」



何言ってんだろう。コノ子。
まさか夢のなかでもマジマジ言ってるとは思わなかった…

半ば呆れながら、ヘンな寝言を言う むにゃむにゃと動く唇に目がいく。
そういえば、自分から触れたことはないような気がして、執拗に薄めのそれを見つめてしまった。



「ジロちゃん…」



気持ち良さそうに眠っている君を もう一度確認して、唇をくっ付けた。
ちゅっと控えめに鳴る音にドキリとした。

バカみたいに緊張して、ぎゅううっと固く閉じた瞼を開くと―――…



「果報、来たぁ〜…」

「…えっ…ちょっと…え…」



目の前には、にぱっと嬉しそうに笑う君。



「な、ななっ…なんで…」

「んー…?」

「さっき、寝て、寝てた、よね?」



どもりまくる僕を、目が醒めきらない顔で見ながら君は言う。



「んー…寝てたよ?」

「で、でもっ」

「お姫様のキスで目覚めちゃった〜、みたいな?」

「…っ…」



きっと嘘じゃない。
でもそんなことより、自分からキスしたことが君にバレちゃったのが恥ずかしくてたまらなかった。



「も、やだ…」

「怒んないで?」

「怒ってない」

「じゃあ拗ねないで?」



真っ赤になって顔をベッドに伏していると、ノソノソと君が身体を起こす気配。
やがて脇の下に腕を通されて、ヒョイと身体が持ち上がる。
そして背中から抱き込まれたかと思うと、一緒になってベッドに倒れ込んでしまった。



「やだ、テスト勉強しなきゃ」

「不二の機嫌が直ったらね〜」

「悪くないもん…」

「わかったわかった」



やだとか口では言いながら、回された腕にぎゅっっとしがみ付く。
君が嬉しそうに笑うから、首筋がくすぐったい。



「“果報は寝て待て”ってマジだね。」

「…本当に意味知ってるの?ただ寝てるだけじゃ果報は来ないんだよ?」

「うん。ちゃんと努力したら後は慌てずに待てってことでしょ?」

「知ってたんだ。」

「まぁね〜」



ちょっとびっくりしてクルリと身体の向きを変えて、君に向かい合う。
でも、得意気に笑ってるものと思っていた表情が 存外に真剣な面持ちで僕は更にびっくりする。



「どしたの?ジロちゃん。」

「古典の勉強、ちゃんとしたんだ。」

「それって…」

「うん。やっぱ今からじゃわかんねぇトコはあった。だから教えて貰おうと思って」



ちゃんと覚えてたんだ。僕んちに何しに来たか。



「うん」

「寝ちゃってゴメン…」



シュンと子犬みたいに眉を垂れる君を、『いいよ』って撫でてあげる。
それから、『ちゃんと勉強してたんだね。えらいよ』って。
そしたら君はふわって笑って…



「ありがと。果報来たから俺、もっと頑張る!」



僕の鼻先に軽くキスをした。



「果報ってなんのコト?」

「ん、不二がキスしてくれたコトに決まってんじゃん!」

「もうっ…その話はやめて!」

「えー!やめない!」



キッと睨み付けると『怒っててもかわE〜』なんて言いながら君はベッドを抜け出す。
『よしっ』って気合いを入れて古典のテキストを捲りながら君が呟くのは―――…



「まじく、まじく、まじ、まじき、まじけれ…」



“打消推量”でした。



「ヘンな寝言って言ってゴメンね」

「ん、なに?」

「なんでもないっ」



努力してれば果報はやってくるらしい
まじで寝てても―――…



END...

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