氷帝×不二

□ぼくらはひとつだけ嘘を吐いている。
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「白うて細うてかわええねん。
 まあ、なんや、まさに理想の“女の子”って感じやな。」



青春学園と氷帝学園の丁度中程。
すっかり馴染みとなった喫茶店で
忍足侑士は今にもトロけてしまいそうな甘い声で言った。



「へぇ、そうなの。」

「せやで」



それを聞いた不二周助はひとくちアイスティーを飲んで、そう返事をした。



「それよか、不二の方はどないなってん?」



忍足が訪ねると、不二は再びストローに付けた唇を離して考えるような素振りをみせる。
そしてちょっと首を捻ってからこう言った。



「そうだね。
 よく気が付く、話し上手の聞き上手。
 まさに理想の“女の子”って感じかな。」



それを聞いた忍足は、アイスコーヒーのグラスを指の腹で撫ぜながら、
同じフレーズに、なんそれ。と可笑しそうに笑う。
仕舞いには、



「俺らの好きな子、同じだったりしてな」



と、また笑う。
けれど不二は、あーそれはないない。とひらひら手を振って



「だって僕の好きな“女の子”は白くも細くも、可愛くもないもの。」



と。
忍足は顔をしかめる。



「かわええ“女の子”やないん?」

「そうだね。
 どっちかって言うとオトナっぽいかもね。」



不二の言葉に、忍足ふぅんと漏らす。



「あー、でもさ。
 僕の好きな“女の子”、氷帝の子なんだよね。」



忍足も知ってる子かもね。と不二。



「ほんまかいな!!!」

「ほんまほんまー」



椅子から軽く腰を浮かせた忍足とは対称的に、
のんびりと言って、不二はまたアイスティーをひとくち含む。

忍足もすぐに落ち着きを取り戻して、少しバツが悪そうな顔でアイスコーヒーを喉に通した。



「せやけど、それやったら」



アイスコーヒーで口内を潤した忍足が、仕切り直すように口を開く。
また、指の腹でグラスを撫ぜながら。



「やっぱ不二の好きな子と、俺の好きな子は絶対ちゃう子やんな。」

「そうなの?」

「おん、やって俺の好きな子、自分トコの学校やもん」

「ええっ?!」



今度は不二が身を乗り出す番だった。
反動で、不二のアイスティーのグラスが揺れた。



「ちょお、危ないやんか」



それをぱっ捕まえて、忍足は苦笑いを零す。
中身をぶちまけずに済んだグラスを、そっとコースターに戻して、気ぃ付けや。と付け加えた。



「あ、あぁ…ごめん、忍足…」

「ええって。
 まぁ、零れて大騒ぎになるほど残ってへんし。」



指差したグラスには、確かに。
もう5分の1程度しかアイスティーは残っていない。



「自分、飲むペース早いなぁ」

「そう、かな…?」

「早いやろ。まだ入って10分も経ってへんで?」



なんとなく値の張りそうな、シルバーの腕時計を見せながら
忍足はカラカラと笑う。

言われておいて、不二はまたストローに口を付けた。



「ねぇ、忍足は…
 他には、その、さっきの以外はどんな子なの?」

「せやなぁ」



少し考え顔で、忍足はグラスの淵をなぞる。
不二の汗をかいたグラスを庇って指先が濡れたせいで、音が鳴る。
グラスハープのように。



「たまにとんでもないこと仕出かすトコ、かもしれへんな。
 えらい天然ちゃんでなぁ…
 危なっかしゅうて、見てられへんねん。」



まあ、なんやかんや見てまうんやけど。
不二は忍足の真似をしてグラスの淵をなぞりながら、一緒になってカラカラと笑った。
中身の少ないグラスからは、忍足のよりもわずかに高い音が響く。



「それと、ちょおお行儀悪いトコもまた魅力やな」

「なに、それ」

「ははっ、なんやろな。
 好きならなんでも可愛くみえてまうんかな?」



不二はぴたりとグラスの淵を触るのを止めて、眉をひそめた。
忍足は相変わらず笑っている。



「不二は?他にはその子のええトコあらへんのん?」

「いいトコ、か…
 僕は指がね、指が好き。」



ちょっと恥ずかしそうに不二が言うのを聞いて、忍足はグラスに触れていた指を止める。



「自分指フェチなん?」

「…フェチ、ってワケじゃないと思うけど」

「指、なぁ。」



忍足はふと、腕時計の嵌まった自らの右手の指に視線を落とす。
それは男らしく節ばっていて、おまけに、普段はまったくできないマメが、珍しく硬くなっている。
グリップを握る位置。
聞き取れるか取れないかの声でぽつりと呟く。



「あかんなぁ…」

「え、なに?」

「いや、なんもあらへんよ」

「そう?」

「おん。」



首を傾げる不二を安心させるように、忍足は笑った。



「おっきい手っていいよね。」

「ほうか?」

「うん。なんか、好きなんだ」



相変わらず俯いて不二が言う。
怪訝な顔つきで忍足は首を傾げる。



「手のおっきい女の子が好きなんか?」

「えっ」



思うままに問うと、不二の表情が強張った。



「あ、その、女の子じゃなくて。
 なんていうか、普通に、お父さんみたいかなぁって…」



ほら、単身赴任中でしばらく会ってないから。急に思い出しちゃったのかも、ごめん。
一気に言って、不二はますます俯いた。



「なんや、そういうことかいな。びっくりしてもうたやん。」


それから忍足は、ほんの少し身を乗り出して、テーブル越しに不二の栗色の髪を撫でた。
ぱっと顔を上げると、眼鏡の奥の瞳が優しく細まっている。



「あの…」

「寂しいんかなって思うて」



おとんの代わりやで〜。
言って今度は、少し乱暴に掻き撫でた。


「俺の手はどない?あかん?」

「好き、だよ」

「さよか。おおきに」



にっと笑いかけられて、不二は白い肌に朱を浮かべる。
あからさまな動揺。
最後に忍足がぽんぽんと2度、軽く頭を叩いたのを機に撫でるのを止める。

椅子に座り直して忍足はグラスをなぞる。



「ほんま、かわええは俺の好きな“女の子”わ。」

「そうなんだ。」

「おん。自分の想い人みたく聞き上手やないけどな。」

「そう、なんだ。」



せやで。
忍足は残りのアイスコーヒーを一気に飲み干した。



「僕の好きな“女の子”も、すごく、優しいよ。」

「そうなんや。」

「うん。きみの好きな人みたいに可愛くはないけど。」

「そう、なんや。」



そうだよ。
不二が啜ったグラスにアイスティーはもう残っていなかった。

ズズズッと無遠慮に音が響く。
それがなんだか無性に可笑しくて、ふたりして顔を見合わせて、それから笑った。



「そしたら、そろそろ出よか。」

「うん。今日はありがとう。」



忍足が伝票を取る。



「こっちこそおおきに。」

「ねぇ、また話聞いてくれる?」

「おん、任せとき。自分こそ頼むで?」

「もちろん。」



こうして会うのは何度目だろう?
すっかり馴染んだ喫茶店を後にして、互いに手を振り合う。

不二は立ち止まって、去っていく後姿を振り返る。
やがて前に向き直った不二の後姿を、今度は忍足が振り返る。
ふたりの視線は絡まない。



ぼくらはひとつだけ嘘を吐いている―――…


「嘘やで。ほんまは、自分がすき。」
「嘘だよ。ほんとは、きみがすき。」

END...

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