短編物詰合せ
□迷い(幕末・京都)
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「わぁ、月王さん、どうしてここにいるんですか?」
いつもの会心スマイルでそう言われても・・・。
全然、どうしてって顔じゃないですよ、沖田さん。
「副長から聞いてるでしょ!わかってて言ってるでしょ!!」
これは私が斎藤さんに連れられて再び屯所に逆戻りしたときの会話。
巡察から帰ってきた沖田さんが部屋にいる私を見つけてこんな会話になった。
しかも、私の布団、真ん中に敷くな!!!
「だって、奥は私の専用だし、かといって入り口じゃぁ、月王さん、逃げちゃうかもしれないでしょ。」
お布団があるだけものすごくありがたいんだけど・・・・。
私の右と左で全く空気が違うのは寝づらい。
斎藤さんがいる日はまだいい。
斎藤さんが寝るときは、【沖田さん五月蝿い。静かにお願いします。】オーラが斎藤さんから放出されているからだ。
ああ、でもこの日が来てしまった。斎藤さんが夜の巡察にでる日が。
就寝時間に彼はいない。
「さ、どうぞ寝てください。」
「勝手に寝ますからほっといてくださ−−い!」
「隊規で就寝時間決まってますから。それには従ってもらいますからね。」
「分かってます!。」
沖田と二人きりで就寝時間を迎えるのが気がかりだった。
何かとちょっかいというか、イライラするお喋りとかしてくるからだ。
「ねぇ、月王さん・・・。」
ほらきた。
「月王さん、男装してるつもりでしょうが、私知ってるんですよ。」
「何がですか?」
しらばっくれてみたが、ぎくっとした。いつ沖田は気が付いたのだろう。
「みんなに言っちゃおうかな〜。それとも黙ってて欲しい?」
「それって脅しですか?そういうのって士道に背くんじゃあありませんか?」
「ちぇ〜っ、月王さん、こんなときにそれ、持ち出しは反則ですよ−。斎藤さんもどうしてこんな人にかまうのかなぁ。どこがいいのか分からないや。」
「沖田さんにいいと思ってもらわなくても結構です。」
「ねぇ・・・月王さん、斎藤さんって着物脱がないでするっていう噂があるんですよ。」
「まったく意味がわかりません。」
「斎藤さんね、島原で女を抱くときに着物脱がないでする人っていうことで有名らしいですよ?しかも超早く終わっちゃうって。」
「・・・・就寝時間過ぎてますよ、沖田さん。」
「でもね、なぜかモテモテなんですよ。副長なんて密かに俺様一番じゃないと嫌な人だからもう、そんな日は大変で・・・・。」
(そんなこと聞きたくない。関係ない・・・・・。)
ぶち。
我慢の限界が切れた。
「うるさああああああああい!!!」
と叫ぶなり、いきなり廊下をダダダダダダと音がして、ピシャっと障子が開くと、
(げ、副長!)
「お前らうるさい!静かにしやがれ!」
と、一喝すると、ドスドスドスっと戻っていった。
(うへっ)
「でね、でね、・・・・。」
(沖田さん、今怒られたばっかりでしょ・・・・。無視!断固無視すべし!)