dream2

□はじめまして誰かさん
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忍術学園の学園長と私のひいじい様は知人らしいという事は小さい頃から聞いていた。私の家系は先祖代々とあるお城で忍者として生きてきた。かくゆう私もくノ一になるべく幼い頃から兄弟と共に日々勉強して、15の歳にお城でプロのくノ一として働いた。
それから数年後のとある日。
私は来月から忍術学園で教師として働く事。
と、ひいじい様から直々に言い渡された。




「と、言いますと?」

「うーん、ワシの友人の大川がな。うちの忍者を学園の先生として迎えたいと言ってきてな。何でも一クラス成績が遅れに遅れていて先生をもう一人付けたいんじゃと。つまりは助手じゃな。」

「それで、なぜ私なのですか?」

「お前の兄は今年から組頭になったじゃろ?それに姉はめでたく寿退社。くノ一を卒業すると言っとるし。弟は弟で今重要な任務についている。」

「他にうちの忍者で他所に出して恥ずかしくない逸材は名無しさんだけなんだよ。」

「はぁ。そう言われるとそうですね。」

「名無しさんにもいい経験になるじゃろ。なにせあの学園の先生方は素晴らしい忍者だ。逆にお前も勉強してきなさい。」





優しい顔つきでひいじい様は仰った。
忍術学園。どんな所なのだろうか。聞き分けがいい可愛い子たちだといいな。
いや、助手とはいえ一教師。どんな子供でも親身になって教えていかなければ。






そう一人意気込んでから、かれこれ半年。

私が助手として受け持ったクラスは忍術学園一年は組。
みんな素晴らしく聞き分けがいいし、素直だし真面目。だけど勉強は苦手なクラスだった。
それだけならまだしも、色々な事件に巻き込まれたり巻きおこしたりで・・聞いてはいたけど、これじゃあ勉強が遅れるのも頷けてしまう。




「いやいや!何のために私が来たの?!頑張って巻き返さなきゃ!!」


「うわぁ、ビックリした。名無しさん君、いきなり大きな声出してどうしたんだい?」

「あ、失礼しました。土井先生。私、明日の抜き打ちテストの製作しますね!!」

「え?いや、それなら私がするから・・。」

「いえ!私にやらせてください。土井先生は 委員会活動がありますよね?夕食前までに終わらせますので、確認お願いします。」

「そうかい?それじゃあ頼むよ。」

「はい。」




土井半助先生。一年は組の教科担当の先生だ。ちなみに実技担当は山田伝蔵先生。二人とも実力もあるし教え方も上手いのでとても尊敬する方々なのだ。
私も頑張ってこのお二方に近づきたい。
最近そう思えてきたので、お城に仕えていた頃より生き生きしている気がする。
自分自身そう思うって事は意外と天職だったのかもしれないな。

職員室でテストの製作をする事数刻。
半鐘の鐘が鳴った。よし、予定通り終わった。あとは土井先生が戻ってくるのを待ってこのテスト用紙の確認をして貰うだけ。そう考えていると部屋の外から声が聞こえた。




「「失礼します。加藤団蔵、福富しんべヱ入りまーす。」」

「あら、団蔵君にしんべヱ君どうしたの?」

「あれ?土井先生いらっしゃらないんですか?」

「火薬委員会の会議があるらしくてね。でももう直ぐ帰ってくると思うわよ?」

「土井先生に夕食について報告しようと思って。名無しさん先生、夕食の献立何か知ってますか?」

「んー?わからないな。君たちは知ってるの?」

「勿論ですよ!この福富しんべヱ三ヶ月先まで献立のメニューを把握してます!!」

「しんべヱは食べ物に関しては記憶力いいからなー。」

「でもでも、今日のメニューは学園長先生のワガママで急遽ちくわの磯辺揚げに変更になったんだ。」

「学園先生の権力で?それは凄いわね。それで、何で土井先生に夕食を報告するの?」

「実は土井先生、あの歳で練り物が大の苦手なんですよ。」

「あら。そうなの?」

「だから僕が代わりにちくわを食べてあげようと思って!」

「僕はさっきしんべヱとたまたま会って。面白そうだからついて来ました。」

「そうなんだ。土井先生って弱点ないと思ってたんだけど、そうでもなかったのね。」

「名無しさん先生も夕食ご一緒しませんか?」

「え、いいの?」

「「勿論ですよ!」」

「じゃあそうしょっかな。」

「「わーい。」」



私と一緒にご飯食べるだけなのに、凄い嬉しそう。本当可愛いな。



「あれ?お前たち何をしてるんだ?」

「「あ!土井先生ー!!」」

「お疲れ様です。」

「あぁ、名無しさん君。例の製作はどうだい?」

「バッチリですよ。机の上に置いておくので後で確認お願いします。」

「「土井先生!そんな事より!かくかくしかじか!!でしてー!!!」」

「なにぃぃいい?!!!」

「土井先生、僕が食べてあげますね!」

「あぁしんべヱ、頼むよ。」

「凄い、それだけで伝わるんですね…。」

「まあ何年も教師をしているからね。」

「私もなれるでしょうか。」

「ん?」

「いえ、何でもないです。ご飯、食べに行きましょう。」




ルンルン気分のしんべヱ君を筆頭に私たちは食堂へ向かった。
ちくわの磯辺揚げ定食を受け取り席に着くとしんべヱ君は美味しそうに食べ始めた。
その隣にやや気分が落ち込み気味の土井先生が座っている。



「土井先生、ちくわ食べなくていいのにテンション低くないですか?」

「いやぁ、メインのおかずが無くなってしまって少し寂しいなって思ってな。」



ちくわの磯辺揚げ定食なだけにちくわを取ってしまったらおかずは冷奴とほんの気持ちのお新香だった。
確かになんか可哀想。そう思って私は自分の御膳から冷奴を取って土井先生の御膳の上に置いた。




「良かったら食べてください。」

「え?」

「あ、お新香の方が良かったですか?」

「いや、冷奴がいい。じゃなくて!良いのかい?」

「ええ。私にはちくわがありますから。」




うわぁー土井先生羨ましい!!!ずるい!!なんて後ろから凄く羨ましそうな声が聞こえた。あの上級生そんなに豆腐が好きなのかしら。




「良かったですね、土井先生。」



団蔵君がニコニコしながらお茶を飲む。
しんべヱ君は相変わらずご飯を美味しそうにかきこんでいる。



「しんべヱ、よく噛んで食べなさい。」

「んー、んー!ごくっ。はーい。」

「あ!」

「え?」

「熱っ!!!」


お茶を飲んでいた団蔵君が手を滑らしたらしくお茶をこぼしてしまった。湯呑みを素早く取ったが無残にも中身は全て向かいに座っている土井先生にかかってしまった。




「ごごごごめんなさい!土井先生!!」

「土井先生、これ使ってください!」



私は急いで土井先生のところに回り込んで持っていた手ぬぐいを渡した。遠くで見ていた上級生も冷やした布巾を素早く持ってきてくれる。




「団蔵。」

「は、はい!!」

「私は大丈夫だから、気にするな。」

優しい口調で土井先生は団蔵君の頭を撫でた。
団蔵君を見ると泣きそうになっていたのか、涙目になっている。


私は何にも気づけていなかった。



「本当にすみせん。」

「むしろ団蔵にかからなくって良かったよ。名無しさん君、新しいお茶を持ってきてくれるかい?」

「・・・。」

「名無しさん君?」

「あ、はい!お茶ですね!」




土井先生は自分の事より団蔵君の心配をしていた。土井先生の心配は勿論だけどそれ以上に自分のせいで土井先生に熱いお茶をかけてしまった団蔵君が居た堪れない気持ちになってるのだから、そちらにも気を回すべきだった。

それにしても、さっきの土井先生の表情。
とっても優しかったな。


そう考えたらなんだか胸が苦しくなった。





「名無しさん先生、お湯沸騰してますよ。」

「わっ、わわっ!!団蔵君!」

「名無しさん先生、さっきはごめんなさい。それから、ありがとうございます。」

「私は何も・・」

「名無しさん先生さっき僕の方にもお湯が流れてきたのを遮ってくれたじゃないですか。」

「えっ?」

「もしかして無意識ですか?名無しさん先生手見せて下さい!」

「わっ、団蔵君!」

「ほら少し赤くなってる!水で冷やしてください!!」




団蔵君は私の手を引っ張ると洗い場に溜めてあった水の中に手を突っ込む。
言われてみれば少しだけだけど、手がジンジンする。



「僕の為に、すみません。」

「あ、謝らないで。私だって団蔵君の事気遣ってあげれなかったし・・。」

「そんな事ないです!!!」

「?!」

「だって名無しさん先生、僕の事を思って火傷までして。こう言うのもアレですけど・・嬉しかったです。」

「あ、ありがとう。」

「後で新野先生から塗り薬貰ってきますね。」

「そんな大した事ないから大丈夫よ。」

「ダメですよ!土井先生と職員室で待っててくださいね!!」

「うん。ありがとう。」




今だに繋がれた団蔵君の手を握りしめる。
じんわりと、何かが私の心から溢れ出した気がした。



少し遅くなったけれど、四人分のお茶を淹れて席に戻るとしんべヱ君の口周りを拭いている土井先生が眉を下げてこちらを振り向いた。



「お帰り。お茶、ありがとう。ほらしんべヱ、名無しさん君がお茶を淹れてきてくれたぞ。」

「わーい、名無しさん先生ありがとう!」



それから暫くみんなでゆっくりしてから職員室へと戻った。
団蔵君が新野先生からもらって来てくれた塗り薬を土井先生と分け合って、今は先ほど私が製作したテスト用紙に目を通してもらっている。
かくゆう私は、宿題に出されていた答案用紙にマルバツの採点をしている。まあ、主にバツが多いのだが。それでも、前回より少しだけマルが増えている事に気がつき頬が緩む。



「山田先生遅いですね。」

「そうだな。遅くなるとおっしゃっていたから、帰ってくるのは真夜中になるかもしれないな。」

「出張のお土産買ってきてくれるでしょうか。」

「はは。どうだろうな。」

「土井先生、こちらの採点は終わりました。」

「ありがとう。こちらも確認終わったよ。問題無しだ。」

「それは良かった!」



資料を整えて土井先生はこちらを振り向いた。




「採点の途中何やら顔が緩んでいたが、何かいい事でもあったのかい?」

「え、顔に出てましたか?!」

「そうだね。」

「このテストなんですが、少しだけですがみんな前回よりもいい点取れてますよ。それがなんだか嬉しくて。」


「名無しさん君。」

「はい。」

「君は充分立派な教師だよ。少なくとも私は助手なんかじゃなくてそう思ってる。」




土井先生が何でいきなりこんな事言ってきたのか理解できなかった。顔に出ていたのか土井先生は笑っている。



「時々思いつめてた様子だったからね。名無しさん君の場合、考えすぎずもっと気を楽にして子供たちと向き合ってみてはどうかな?」

「はい。アドバイス、ありがとうございま、す。」

「えっ、名無しさん君、もしかして泣いてる?!」

「え?」



確かに頬を涙が伝っていた。土井先生に言われて何だか肩の荷が下りたというか、安心してしまったのだけれど。まさか泣くなんて。



「すすすすまん!大きなお世話だったかな?!」

「土井先生、謝らないでください。私物凄く嬉しかったです。」

「本当かい?!」

「ええ。それとも、私の事信用してくれないんですか?」

「いや、そんな事ないが。」




まだ慌てている土井先生には申し訳ないのだが、慌て具合が面白くてつい笑ってしまった。




「笑わなくてもいいじゃないか。」

「あはは。すみません。ふふっ。」

「まぁ、名無しさん君は笑ってた方が可愛いね。」

「か、可愛い、ですか?」

「あぁ、とっても可愛いよ。」

「可愛い・・。」

「その笑顔でまた明日から、子供達と一緒になって笑っていて欲しいな。」

「はい!」
















その後自室に帰った私は中々寝付けずにいた。それもこれも、食堂で団蔵君に見せた土井先生の顔が頭から離れなかったからだ。

「素敵・・だったな・・・。」

確実に土井先生は私の中で理想の教師になっていた。あの時の顔を思い出すと胸が締め付けられる。これが憧れとゆう感情なのか。
ひとつ、ため息をついていまだ騒めく感情を落ち着かせるため目を閉じた。




【はじめまして誰かさん】

はじめて生まれた感情が
いつか恋へと変わる。




20151108


お借りしたお題サイト様
▽http://nanos.jp/contact/
▽ 反転コンタクト様


前サイトキリリク夢。
タカシ様へ。
33700HIT裏無し土井先生夢(教育実習生がキュンとなる話!)でした。
リクエストは教育実習生だったのですが、助手という形にさせていただきました。
しかもキュンとする事柄、物凄く微妙でしたね。本当すみません。

そして、数年間放置してすみませんでした。


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