−1年生編−

□第5話〈闇は優しさに消えた〉
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「ん……っ」

マリはうっすらと目を開けた。

窓から差し込む太陽の光が、目に痛かった。

「あ、れ…?私…」

いつの間に眠ってしまったんだろう?

確か昨日は、今までにないくらいのおいしいご馳走を食べて、ジェームズと話して、それで――…

「……っ!」

レギュラスとのことも、思い出した。

ああ私、今日からどうすればいいの――…


「……ん」

すぐ隣で声がした。

「え、シリウス?」

なんでここにいるの!?
いつの間に!?
ていうか私たち、談話室で寝ちゃったの!?

どうして…!?


いろんな考えが脳内を駆け巡っていると、シリウスがゆっくりと瞳を開けた。

「…ん、マリ…、起きたのか…?」

覇気のない声でそう聞かれ、マリは戸惑いがちに頷いた。

確か、私は昨日――…


「大丈夫か?」

「…え?」

シリウスは伸びをして、ソファに座り直した。

「昨日のこと、無理はしなくていいから。これから、ゆっくり考えてこう」

「う、ん」


夢ならば、よかったのに。

しかしシリウスの言葉は、昨日のあれが夢ではないことを示している。

レギュラスに、かつてないほど嫌われてしまった、という事実を。

「仕方ない、わよね」

だってレギュラスは、何も悪くないんだから。

家の教えを破ったのは、私なんだから。

「まさか本当に、こんな事になっちゃうなんて」

レギュラスだけじゃない。

お母様も、お父様も、みんなを裏切ってしまった。

これから自分には、一体何が待っているのだろうか。


時刻は7時を過ぎた頃だった。

階段の奥から、かすかにガヤガヤと騒ぎが聞こえた。

グリフィンドール生が、起きてきたのだ。


「とりあえずマリ、お前は寝室に行って顔を洗ってこいよ」

ルームメイトにも挨拶してないんだろ?というシリウスの言葉に、頷く。


女子寮へと向かう階段の所まで来て、マリは兄を振り返った。

「シリ、ウス」

シリウスが不思議そうに振り向いた。

「ん?」

「私…」

マリは前方を見すえ、シリウスの目を見ないまま言った。

「私、グリフィンドールのこと、嫌いじゃないわ。

だけど、レギュやお母様達に嫌われないですんだのなら、私…」


マリはそこまで言うと、これ以上言葉を続けられないかのように 階段を走って登っていった。


残されたシリウスは、じっと彼女の消えた階段を見つめた。

「分かってるよ」

…分かってる、分かってるさ。
それが、“普通”なんだから。


勇猛果敢なグリフィンドール。
勇気ある者が住まう寮。

それでも、彼女が求めるものを得られはしない。


“私、スリザリンがよかった”

彼女は、今さらになってスリザリンを望んだのだ。


こうして、楽しくなるはずのマリの学校生活は、涙と絶望と共にスタートした。
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